研究課題/領域番号 |
25282186
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
森 敏生 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30200372)
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研究分担者 |
海野 勇三 山口大学, 教育学部, 教授 (30151955)
丸山 真司 愛知県立大学, 公私立大学の部局等, 教授 (10157414)
田中 新治郎 武庫川女子大学, スポーツ健康科学部, 教授 (70197432)
中瀬古 哲 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (00198110)
中西 匠 武庫川女子大学, スポーツ健康科学部, 教授 (10259608)
石田 智巳 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90314715)
則元 志郎 熊本大学, 教育学部, 教授 (90136698)
久保 健 日本体育大学女子短期大学部, その他部局等, 教授 (60125698)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スポーツ活動システム / 学習指導要領 / 運動文化論 / TGfU / Physical Literacy / 生涯スポーツ |
研究概要 |
本年度の中心的研究課題は、第一にスポーツ文化実践の目的・動機のタイプを観点に、第二に子どもの資質・能力形成に関わる目標・対象と教育の目的を観点に、体育の教授―学習の対象としてのスポーツ活動システムを特徴づける具体的様態を検討することである。 第一の観点から、競技パフォーマンスの向上をめざす活動システムと、心身の健康や機能向上をめざす活動システム、ゲーム性の楽しみや社会的交流に動機づけられた活動システム、様式化された身体運動の表現に動機づけられた活動システムが区分された。こうした区分は相対的であり、現実のスポーツ文化実践は相互に浸透しあって様々な活動システムの具体的様態をつくりあげ、こうした活動システムの複合性と多様性は、生涯に渡るスポーツ実践の個性的・継続的追求を可能にする文化的基盤を成している。 第二の観点については、学習指導要領、運動文化論、TGfUのPhysical Literacy論の三者から特徴づけを図った。学習指導要領では、生涯スポーツ・健康の保持増進のための実践力・体力の向上を目標・対象に、「明るく豊かな生活を営む」ことをめざす活動システムが追求されている。運動文化論は、運動文化の技術性、組織性、社会性に関する技能と認識、科学的な認識方法、民主的・自治的な実践力を目標・対象に、文化の権利主体となることをめざす活動システムが追求されている。TGfUのPhysical Literacy論では、知識と理解に基礎づけられた批判的思考や意思決定と問題解決、技術的・戦術的スキルの適用能力、他者を包摂し他者と協同して相互の身体活動の喜びを共有・創造する社会的スキルの発達を目標・対象に、生涯にわたる最適な身体活動を継続する活動システムが追求されている。これらは生涯スポーツをめざす点で共通性があるが、生涯スポーツにおける主体の自律性・社会性に関して異なる立場が示されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の中心的研究課題である体育の教授―学習の対象としてのスポーツ活動システムを特徴づける具体的様態の検討に関して一定の概念的枠組みが整理されつつある。 先ず、スポーツ活動システムの様態を変化・発展させる構造的過程を検討している。つまり、①学習や練習・トレーニング、稽古と試合・競技、記録会、表現・発表会という活動主体の能力形成・発揮に関わる活動システム、②能力形成・発揮のあり方(内容と様式)を集団的・組織的に再検討・再構築する活動システム、③こうした活動システムの展開と発展を学校やコミュニティや社会で実現する仕組みをつくる活動システムを区別と関連のもとに探求する必要がある。こうした概念的枠組みにより、スポーツ活動システムの具体的様態が構造的・立体的に捉えられる。 次に、スポーツ活動システムを体育の教授―学習の対象として再構成する原理の検討である。第一は、教科の目的と教科の目標・対象の階層構造に媒介されて体育カリキュラムとして再構成されるということである。第二は、子どもが実現している活動システムの発達段階・発達要求に対する最適性の問題である(最近接発達領域論)。第三は、カリキュラムや体育授業における系統的な構成原理である。これについては、部分的要素的なものの加算的・総和的な構成原理ではなく、複合的な全体システムの創発原理を検討する必要がある。学校と社会(生活)という活動の場を往還して、生涯にわたってスポーツを自律的に享受し変革・創造していく活動システムが、未分化な最小単位からより分化・統合された複合的な全体システムへと創発的に発展(自己組織化)していく構成原理を問題にしたい。体育授業における媒介と構成の考え方は、カリキュラムレベルのそれとコヒーレント(整合的)な関係にある必要がある。同時に、体育授業では教授と学習の相互関係という文脈における媒介と構成が問題になる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、本研究の第二の研究課題領域として設定した、スポーツ活動システムの自律的形成という目的規定の意義づけを図っていく。この研究課題へは次のような推進方策を考えている。 先ず、平成25年度の研究実績として記した考察・検討の成果、ならびに現在までの達成度として記した概念的枠組みを、引き続きより具体的で総合的なものに深めていく。つまりスポーツ活動システムの具体的様態のさらなる解明とともに、教育学的な媒介により学校体育の教授―学習の対象と成るスポーツ活動システムの内容を、最近接発達領域論と全体システムの創発性に即して、系統的に構成する。 また、学習指導要領、TGfU、そして運動文化論における目的、目標・対象の比較検討を継続して進め、関連してスポーツリテラシー(あるいはPhysical Literacy)形成に関する国際的動向を踏まえて、本研究で概念化する目的規定を国内外の諸理論との関連で意義づける。 次に、最近の学習理論に関する文献・資料研究を通して、スポーツ活動システムの自律的形成のプロセスを検討し概念化を図る。その際、教授―学習という活動システムの共同性のもとで、学習者自身が自己と仲間で構成するスポーツ活動システムに内在する矛盾を相互に解決すべき問題として顕在化させ、既存のスポーツ活動システムを再構成していくダイナミックで複雑な学習過程に着目する。こうしたスポーツ活動システムの自律的形成の概念化は複雑性思考(Complexity thinking)を方法論的な視点に据えて進める。 さらに、次年度への展開を見越して、スポーツ活動システムの自律的形成という目的規定が内包する具体的総合性にそって、体育授業の実践的方法論に関する演繹的考察を進める。教科の側が学習者に求めるものと、学習者の生活現実・生活課題とを往還的・統一的に追求する実践方法を原理的に探っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は全国に点在する研究分担者との共同研究体制を取っているが、研究分担者の内の2名に割り当てていた旅費が、研究打ち合わせの場所(地域)の設定の関係で予定よりも安価で収まったこと、また、分担者の仕事遂行上の都合により調査研究を次年度に変更したために繰り越しとなった。 次年度(平成26年度)において、今年度予定していた調査研究を実施する。また、研究打ち合わせや研究報告のための旅費に当てる予定である。
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