本研究は、投球動作をモーションキャプチャーシステムで定量的に把握することによって、投手の行う投球動作が肩関節にどのような負荷を与えているのかを推定するとともに、肩関節のMRI画像診断により、肩関節の状態がどのように変化し、投球障害肩に陥るのか、について前向き(prospective)なデータ収集法によって、明らかにすることを目的とした。 対象は、社会人野球投手17名、大学野球投手24名で、投球動作のモーションキャプチャーと肩関節のMRI撮影を行った。社会人投手のうち、2名の投手が研究参加開始4年後に肩関節唇損傷と診断され、数ヶ月の投球禁止を処方された。2名の受傷者は上手投げまたはスリークォーター投げだったため、対応する投法の受傷していない投手群(健常群)と比較を行った。その結果、従来、肩関節運動として分析してきた、胸郭上腕骨間の運動では、健常群と受傷者では類似した動きをしていたが、胸鎖関節の動きを比較すると、肩関節水平外転が大きくなるテイクバック期において、両受傷者の胸鎖関節後退角度が著しく小さい値(健常群分布の95%範囲外)を示した。 この時期の胸郭上腕体節間の関節間力の推移をみると、いずれの受傷者の法線力(proximal/distal force)も極めて小さな値で推移している一方で、剪断力(特に、矢状面方向の力)が急激に上昇しており、これによって剪断力/法線力の値が著しく上昇していた。これは、上腕骨頭が肩甲窩でずれ易くなっている可能性を示唆するもので、両受傷者の研究参加当初のMRI所見に異常は認められなかったことも合わせて考えると、受傷の原因は、肩甲帯に動作不全のある状態で、繰り返し投球をしたことによって、特定の投球相において動作依存の外力が主に上腕骨頭に働くことによって、関節窩で上腕骨頭のズレが生じ、関節唇損傷に陥ったと推察できる。
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