研究課題/領域番号 |
25282199
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
青井 渉 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (60405272)
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研究分担者 |
内藤 裕二 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00305575)
高木 智久 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70405257)
佐久間 邦弘 豊橋技術科学大学, 工学部, 准教授 (60291176)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨格筋 / マイオカイン / 大腸がん / 運動 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、① 運動による骨格筋からのSPARC分泌機構の解明、② SPARCの標的部位認識機構の解明、③ SPARCの大腸発がん抑制機構の解明、④ SPARC分泌におよぼす運動条件・身体特性および効率的に分泌を促す運動方法の検討を平行して進めた。 ①ヒト筋生検により得た筋組織をAMPK活性化剤で刺激したところ、mRNAレベルが変わらないにもかかわらずメディウム中へ分泌されるSPARC量が増大することを見出した。さらに、単離した筋芽細胞の初代培養においても同様にメディウム中のSPARC量の増大が見られた。これらより、運動によるAMPKの活性化がSPARC分泌に影響を及ぼすことが示唆された。 ②Protein Arrayを用いたタンパク質相互作用の網羅的解析によって得られた165個のタンパク質スポットのうち、カルシウムチャネルに着目した試験を進めた。その結果、チャネルをノックダウンした筋細胞ではSPARC刺激によるグリコーゲン合成能が低下する傾向を観察した。すなわち、SPARCによる糖代謝活性の改善にカルシウムチャネルを介したシグナル伝達機構が関与することを示唆する結果を見出した。 ③TNBS腸炎誘発モデルにおいて、野生型マウスはSPARC欠損マウスと比較して、炎症マーカーに特段の好影響は観察されなかった。一方、正常腸細胞と比較して大腸がん細胞ではSPARC刺激によるアポトーシス活性の亢進がみられた。さらにSPARCで刺激した骨格筋細胞では、AMPK-ACCシグナル系の顕著な活性化が観察された。 ④健常者および2型糖尿病患者に有酸素運動を負荷し、運動前後の血清SPARC濃度の変化を評価したところ、いずれの群においても運動によって同等の血清SPARCの上昇がみられた。また、システイン供給剤を摂取することにより、運動による血清SPARC濃度の上昇が大きかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究①については、ヒト筋組織から得られた筋細胞および筋組織を用いてin vitroおよびex vivo試験を行うことにより、運動による代謝変化と連動してSPARCが分泌されることが明らかになった。研究②については、タンパク質相互作用の網羅的解析結果から、骨格筋における標的タンパク質を絞り込んだ。結果、SPARCはチャネルタンパク質を作用起点とし、その後の細胞内イベントを調節する可能性が示された。SPARCの体内動態、組織移行を検討する試験においては、当試験に用いる組み換えタンパク質標識の条件設定を行った。研究③では、腸炎誘発モデルにおいてSPARC欠損マウスで悪化しなかったため、SPARCの大腸発がん抑制に抗炎症作用は特段関与しないことが示唆された。一方、SPARCは大腸がん細胞に強いアポトーシス作用を有することがわかり、がん細胞に対する認識機構を有することがわかった。また、昨年樹立した新しい仮説“骨格筋耐糖能の改善による大腸発がん抑制作用”について検証を進め、SPARCは骨格筋細胞における糖取り込みを促進し、血糖、血中インスリンの低下に寄与することがわかった。研究④ヒトを対象にした運動方法の検討については、身体特性や食事条件の違いが運動による血中SPARC上昇におよぼす影響を検討することで、新知見を得ることができた。以上、平成26年度の研究により当初の計画をおおむね予定通り達成することができ、SPARCの分泌動態、発がん抑制機構の全容が次第に明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
①-④の研究項目について以下の通り進める計画である。 ①平成26年度からの継続で、骨格筋からのSPARC分泌機序について検討を進める。糖代謝に関連するシグナル活性がSPARC分泌に影響していることがわかってきたため、これまで未知であったインスリンシグナル系とSPARC分泌の関連性について検討する。また、動物実験において、運動時における筋組織内のSPARC動態についての形態学的検討も進める。 ②SPARCとカルシウムチャネルの相互作用を確認するための生化学的分析を進めるとともに、細胞内カルシウム濃度に依存するシグナルと糖代謝の関連について詳細に検討する。また、標識した組み換え型SPARCタンパク質を野生型マウスに投与して、臓器に移行するSPARC量を測定し、臓器間で集積量に差異があるか比較する。もし差異があった場合、SPARC標的タンパク質との関連性について検討する。 ③培養細胞系を用いて、SPARCが骨格筋の耐糖能を改善する作用についての機序解明を目指す。AMPK-ACCシグナル系に加えてインスリンシグナル系に着目し、シグナルタンパク質の活性レベルを検討する。 ④ヒトを対象とした運動負荷試験において、食事摂取タイミング、食事中の栄養素組成の違いが血中SPARC濃度におよぼす影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、装置を購入し、タンパク質相互作用の解析を行う予定であったが、減額措置により高額な装置を購入することが困難となったため、代替措置として、国内機関への試験委託、および国外の研究室(カロリンスカ研究所)における在外研究を行うことで研究を進めてきたところである。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に引き続き、タンパク質相互作用解析から抽出された標的タンパク質の同定および機能解析を進める。ヒト筋生検によって得られた検体を用いて、ヒト骨格筋における検討を引き続き進める。本試験の一部は、必要に応じて国内の試験機関への委託、国外の研究室(カロリンスカ研究所)の協力によって行う計画である。このことによって、高額な装置を購入することなく、推進計画に沿って試験を遂行できる見込みである。繰越金は物品費(消耗品)、検体輸送費の他、必要に応じて在外研究に係る旅費および試験委託に使用する計画である。
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