研究課題/領域番号 |
25282216
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
七五三木 聡 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20271033)
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研究分担者 |
木津川 尚史 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (10311193)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アセチルコリン / ムスカリン受容体 / 視覚情報処理 / 記憶想起 / ラット |
研究実績の概要 |
H25年度、ラットの視覚刺激検出能をグレーティング刺激のコントラスト感度として行動学的に計測する実験システムを開発し、これを用いてアセチルコリン(ACh)分解酵素の阻害薬である塩酸ドネペジルの腹腔内投与の効果を検討したところ、検出課題の難易度が高く視覚刺激が検出し難い条件ほどコントラスト感度を改善させることを見出した(Behavioural Brain Research, 2013)。これは、AChの脳内濃度がただ単に視覚刺激検出能に影響するだけでなく、見にくいモノを見る際にこそ影響が顕著に表れるという刺激文脈依存的効果であることを定量的に証明した重要な研究となった。しかし、覚醒動物を用いた行動学的な視覚刺激検出能計測の実施には、ラットによる視覚刺激検出課題そのものの学習が不可欠であり、通常数週間の訓練を必要とすることから、研究遂行上のボトルネックとなっていた。そこで、視覚刺激や報酬の与え方などに工夫を凝らした新たな実験プロトコルを確立し、効率よく1週間以内でラットに課題を学習させることが可能になった(Physiological Reports, 2014)。そこで次に、視覚刺激検出課題遂行中に分泌されるAChの機能的意義を調べるためにムスカリン受容体の拮抗薬を腹腔内投与したところ、ラットはまったく課題を行わなくなること、また、時間とともに拮抗薬の効果が弱まるにつれて、課題の訓練で学んだ手順どおりに記憶が想起され行動するようになること、最終的には通常通りの課題遂行が可能になることが明らかになった(Frontiers in Aging Neuroscience, 2014)。これらの結果は、通常レベルで分泌されるAChがムスカリン性受容体の活性化を通して、認知的課題についての記憶の正常な想起に関与していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の目標は、ラット視覚認知機能に及ぼす中枢性神経修飾物質の同定とその神経機序解明である。これまでの研究から、アセチルコリン(ACh)が視覚刺激検出能を上昇させるだけでなく、視覚認知における記憶の想起にも不可欠であることを明らかにして、その結果をFrontiers in Aging Neuroscience (2014)に発表することができた。そのため、本実験計画は全て順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25・26年度に確立した視覚機能計測システムを基礎としてこれに修正を加えることで、新たな視覚記憶・認知計測システムの開発を目指す。そして、それらの実験システムを活用して、本研究の「前向きな関わり仮説」を検証することが最終年度の目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、実験システムの構築および予備実験の段階で終了したため、実質支出額が予定支出額より少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度構築した実験システムおよび予備実験データをもとにして、本実験を実施する。
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