研究課題
基盤研究(B)
造血器型プロスタグランジン(PG)D合成酵素(H-PGDS)が補酵素グルタチオン(GSH)存在下でアレルギー物質であるPGD2を産生 する際、2量体の中心に結合したMg2+はGSHのKm値を約4倍も向上させ、酵素を活性化することが知られている(Nat. Struct. Mol. Biol., 2003)。本研究課題では、ヒト由来H-PGDSの中性子線解析を成功させ、2量体の中心に存在するMg2+によってそれぞれのプロトマーごとに補酵素として結合するGSHのSH基をチオラート化する分子機構を直接観察によって明らかとし、2量体間のヘテロな構造も明らかとして、Mg2+による協奏的な活性化機構も解明することを目的とした。一般に、中性子線解析のための結晶化は、 1 mm角以上で、かつ、高品質の結晶を得る必要があり、高純度サンプルの精製および大型結晶化を繰り返し行う必要がある。本結晶は、これを種結晶化によって 進める必要があり、1回目のmicro-seedingでは問題がない高品質結晶が得られるものの、2回目以降のmacro-seeding ではひび割れが生じ、結晶品質が大きく低下することが判明した。良質結晶は0.3×0.6×2.0 mm程度で厚み方向で1 mmを超えることが困難であった。一方、本研究課題を推進する過程で、ゲルを使った結晶核の発生方法や、さらに溶液撹拌技術を組み合わせた大型結晶の新たな育成方法なども確 立できた。本結晶化にも適用したところ、大きくは成長せず、種結晶化の方が良い結果が得られた。また、酵素の安定化を狙った実験としてシクロ オキシゲナーゼ(COX)との複合体の結晶構造解析を目指し、COXの大量精製にも着手することができた。
2: おおむね順調に進展している
H-PGDSに関しては大型で高品質の結晶化を試み、1回目のmicro-seedingではコンスタントに0.2~0.3mm程度の厚さで 長さが1mmを超える柱状晶の結晶を再現性よく得ることには成功したが、macro-seeding法によるさらなる大型化では大型結晶が得 られてもモザイク性の示す通り、高品質結晶を得ることは困難であり中性子線解析には至らなかった。
現在、SACLAの建設が順調に進み、X線自由電子レーザーを用いた実験(文科省重点戦略研究課題【代表:岩田想】との共同研究)によりチロ シナーゼ、Mb、FABP3、NIR、CCA1などの構造解析を行うことができ、MbのFeイオンの酸化によるヘムの構造変化や、NIRの完 全酸化型構造を世界初で観察するなどの成果も得られている。本手法を用いれば、常温の微結晶を含んだ溶液中で反応を開始させれば時分割で反応 過程を追うことも理論的には不可能ではないことが判明しており、本研究課題におけるチオラートの発生機構の解析をXFELを用いて行うことを 今後検討する。
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