大腸菌膜挿入因子MPIaseは糖脂質であるにも関わらず、膜タンパク質が膜に挿入する際に重要な酵素様・シャペロン様活性を示す。我々はこれまでの結果から、ジアシルグリセロールにより低下した膜の運動性をMPIaseが回復させる現象を観測しており、MPIaseの糖鎖部がタンパク質を補足して柔らかくなった膜に挿入する機構を推定している。本機構を詳細に調べるためには、MPIaseの誘導体化が必要であるが、微量の膜成分であるため天然から十分量を得ることは難しく、また糖鎖長やアセチル基の数が不均一であるために、比較検討が困難である。そこで、最小活性構造を明らかにするとともに、誘導体を得るために部分構造の合成を検討した。まず、グルコサミン(GlcNAc)のO-アセチル基が無い3糖ユニットの合成を行った。マンノサミンウロン酸のβグリコシド結合を得るために、まずグルコースを縮合した後に、2位水酸基を立体反転を伴ってアジド基に変換した。この2糖を保護4-アジドフコースと縮合した後、マンノサミンの6位を酸化して3糖を得た。この1位をリン酸化し、ホスファチジン酸と縮合することで、目的の3糖のピロリン酸体を得た。同様の方法で、ウロン酸部をアルコールやエステルとした誘導体、ピロリン酸をモノリン酸とした誘導体等の合成を進めている。これらは膜挿入活性や固体NMRに供する予定である。さらに、第2世代の合成として、GlcNAcのO-アセチル基を有し、糖鎖を伸長できるタイプの糖鎖の合成にも着手した。また、生合成酵素同定のため、ホスファチジン酸の脂質部を重水素標識した基質候補化合物を合成し、質量分析による同定を進めている。
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