研究課題
シナプス前終末に局在する自閉症関連シナプス接着因子Neurexin-3について、この分子のシナプス間複合体の形成に重要であることが知られている第4選択的スプライス部位(ss4)の挿入の有無を操作した遺伝子改変マウスを用いて、このシナプス間複合体形成がシナプス機能に及ぼす役割について解析を行った。ss4の挿入は、Neurexin-3と、シナプス後部に局在するNeuroliginやLRRTMとの結合を阻害するが、ss4の挿入のあるNeurexin-3のみを発現するマウスの海馬のシナプスでは、電気生理学的にAMPA受容体機能の低下が認められ、抗体染色によりAMPA受容体の主要なサブユニットであるGluR1のシナプス表面への移行の低下が認められた。また、NeuroliginやLRRTMとの結合能を有する、ss4の挿入がないNeurexin-3のみを発現するマウスではこの現象がみられなかったことから、シナプス前終末に局在するNeurexin-3が、シナプス間複合体を介して経シナプス的にシナプス後部のAMPA受容体機能を制御していることが示唆された。さらに、自閉症患者から見つかったアミノ酸変異をノックインしたNeuroligin-3 R704Cモデルマウスでも同様の異常がみられたことから、この複合体が自閉症の分子病理パスウェイと関係していることも示唆された。また、Neuroligin, LRRTMに加え、Calsynteinという接着因子も、Neurexinとシナプス間複合体の形成に関与していることを突き止めた。更に、LRRTMのうちLRRTM4は、Neurexin以外に、Glypican-4を介してシナプス前終末のPTPsと複合体を形成していることも見出した。また、Neurexinの細胞内領域のリン酸化がシナプス機能に影響を与えている可能性を見出し、研究を継続している。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請時に、平成25年度はNeurexin-3 ss4(+)及びss4(-)マウスのシナプス機能を電気生理学的に解析し、AMPA受容体機能の異常の有無を調べる計画であったが、この時点で計画した研究は全て完了した。これに加え、Neurexinとシナプス間複合体を形成する新たな役者としてCalsynteinが機能していることを見出し、またこの複合体のメンバーが、シナプス前終末でNeurexin以外にPTPsと結合して別の複合体を形成することを見出したが、これらは当初予定していなかった範囲であるため、当初の計画以上に進展していると考えている。
Neurexinの全てのアイソフォームをノックダウンするshRNAをレンチウィルスにより海馬培養ニューロンに導入し、シナプス機能にどのような異常が生じるか形態学的、電気生理学的に解析を行う。また、この系に、アミノ酸変異を加えたNeurexinを導入することによりレスキュー効果を解析し、シナプス機能に関わるNeurexinの部位を調べる。
研究を行っていく過程で、Neurexinの複合体に関わる新たな分子が見つかった。また、Neurexinの分子間相互作用に関係していると考えられるアミノ酸部位なども見つかってきた。当初計画していなかったこれらの研究を加えることで、本研究によって得られるアウトプットがより高いものになることが期待できる。このため、これらの研究の下準備などをまず行い、予算をより多く使う本実験を次年度以降に行うこととし、次年度使用額が生じた。
神経培養に関わる消耗品、電気生理実験に関わる消耗品、生化学実験に関わる消耗品に使用する。
すべて 2015 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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