研究課題/領域番号 |
25282242
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
田渕 克彦 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (20546767)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自閉症 / シナプス |
研究実績の概要 |
Neurexinのうち、beta-Neurexinは、alpha-Neurexinに比較してシナプス後部の細胞接着因子であるNeuroliginとより高い結合親和性を有する。我々は、beta-Neurexin-1, -2, -3のトリプルノックアウトマウスを作成し、シナプス機能について解析を行った。beta-Neurexinのトリプルノックアウトマウスは生存への影響はさほどないが、野生型に比較して小さく、繁殖性が低下するため、作成時に挿入したloxPを利用して、大脳皮質神経培養にレンチウィルスでCre組み換え酵素を導入することにより、トリプルノックアウトのニューロンを作成した。beta-Neurexinトリプルノックアウトのニューロンは、シナプスの数に異常は見られなかったが、パッチクランプによる電気生理学的解析により、興奮性シナプス微小電流(mEPSC)の頻度の低下が見られた。抑制性シナプス微小電流(mIPSC)については変化が見られなかった。電気刺激による応答に関して、トリプルノックアウトではAMPA受容体性とNMDA受容体性の応答に低下が見られたが、GABA受容体性の応答の低下は見られなかった。内在性カンナビノイド受容体(CB1R)の遮断薬を培養液に投与すると、トリプルノックアウトのmEPSCの頻度の上昇が見られた。これは野生型コントロールでは見られない現象であり、beta-Neurexinが存在することにより内在性カンナビノイド受容体を介したシグナルが抑えられていることを示唆するものである。また、内在性カンナビノイド受容体のアゴニストである2-AGを投与すると、トリプルノックアウトでもmEPSCの頻度が低下したことから、beta-Neurexinは、2-AGの産生を阻害することにより内在性カンナビノイドシグナルを抑えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の研究計画であるNeurexin-3 ss4(+)及びss4(-)マウスを用いた研究が完了すると同時に、Neurexinの結合特異性に関連した自閉症の分子経路の解明という研究目的をより優れた形で達成するために、Neurexinアイソフォームのうち、リガンドとの結合親和性が強いbeta-Neurexinのトリプルノックアウトマウスを用いた研究を組み入れ、Neurexinのシグナルと内在性カンナビノイドシグナルとの関係を見出したため。
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今後の研究の推進方策 |
Neurexinの結合特異性を操作したマウスを用いた自閉症の分子経路を解明する目的をより優れた形で達成するために、この経路にかかわると考えられる分子群について、より迅速で簡便に遺伝子改変マウスが作成できることが望ましい。単に変異コンストラクトを過剰発現しただけでは、gain-of function効果にマスクされてしまうため、変異をゲノム上でknock-inする方法が望ましい。従来のES細胞を用いたknock-inマウスを個別に作成するのでは時間がかかりすぎるため、ゲノム編集技術を用いて、ニューロン特異的に遺伝子knock-inを行う方法の開発に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で見込んだよりも安価に研究が進んだため、次年度使用額が生じた。そして、Neurexin-3の第4選択的スプライス部位特異的ノックイン(ss4+)ノックアウト(ss4-)マウス、beta-Neurexin-1, -2, -3トリプルノックアウトマウスに加えて、Neurexin-3のalpha, betaの両方のアイソフォームをノックアウトしたマウスNeurexin-3 conditional KOマウスも利用可能となり、本マウスの解析を本研究に加えることにより、より優れた研究成果が得られると考え、このマウスの解析を開始したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成27年度請求額と合わせて、マウス飼育費、遺伝子工学関連消耗品、電気生理実験に関する消耗品、形態解析に関する消耗品に使用する。
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