研究課題/領域番号 |
25282247
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
藤山 文乃 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (20244022)
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研究分担者 |
苅部 冬紀 同志社大学, 付置研究所, 准教授 (60312279)
高橋 晋 同志社大学, 付置研究所, 准教授 (20510960)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 基底核 |
研究概要 |
大脳基底核には運動発現のアクセルとなる直接路とブレーキとなる間接路の二つの拮抗する経路が存在し、これらのバランスがどちらかに偏ることによって、パーキンソン病の無動やハンチントン舞踏病の過動という病態が生じる。これが現在最も広く受け入れられている従来の大脳基底核スキームである。パーキンソン病には無動と振戦という病態が混在している。従来の大脳基底核スキームでは、パーキンソン病は間接路優位へ偏るという根拠から、無動という病態を説明することはできる。しかしパーキンソン病に不随意運動の一つである「振戦」が生じる理由を同時に説明することはできない。応募者らはウイルスベクタを用いた単一神経トレース等で、大脳基底核の形態学解析を行ってきた。その結果、次の3つの所見が得られた。 1) 線条体投射ニューロンのうち、基底核出力部(淡蒼球内節/黒質)に投射するニューロン(直接路ニューロン)は淡蒼球外節に側枝を出す。 2)線条体投射ニューロンのうち、淡蒼球外節のみに投射するニューロン(以下、間接路ニューロン)は淡蒼球外節の周辺領域(以下、淡蒼球外節外殻部:カルビンディン陽性領域)に投射する。 3)この淡蒼球外節外殻部のニューロンは主に線条体のカルビンディン陽性領域に投射する。以下、このニューロンを淡蒼球線条体投射ニューロンと呼ぶ。 つまり大脳基底核には、従来の直接路・間接路に加えて、線条体と淡蒼球外節外殻部との反回性回路が存在すると考えられる。本研究課題では、この反回性回路が実際に行動中のラットで機能していることを、形態学と最先端の電気生理学を融合させた解析手法で証明するものである。従来のスキームにこの新たな反回性回路が組み込まれることによって、様々な病態を矛盾なく説明しうる新たな大脳基底核スキームの確立に貢献しうると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)局所回路の結合特異性解析に関する進捗状況:大脳基底核内結合解析淡蒼球外節と視床下核は大脳基底核において間接路の中継核として知られている。私達は既に遺伝子改変ウイルスベクタを用いた単一軸索染色を用いて、この2領域が中継核としてのみではなく、線条体など基底核の上流にも神経投射をしていることを報告した(Koshimizu et al., 2013: Fujiyama et al., 学会発表)。また、順行性トレーサーとしてウイルスベクタのみならずプラスミドベクタの使用も可能であることを検証している (Oyama et al., 2014)。 (2)大脳局所回路間の相互作用解析に関関する進捗状況:基底核入出力を中心にして上述の視床下核はまた大脳皮質から直接の投射を受けることが知られているが(ハイパー直接路)、大脳皮質のどの領野のどの層からどのようなパターンで入力を受けているのかは明らかになっていない。私達は既に順行性および逆行性神経標識法を用いて、この両者の領域特異的な結合様式を明らかにしている (Karube et al., 学会発表)。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 運動関連皮質―線条体―淡蒼球―視床下核―黒質を含むスライス標本を用いたパッチクランプ細胞記録と細胞形態の同定(分担者:苅部) 昨年度同定した淡蒼球―線条体投射を含む、運動関連皮質―線条体――淡蒼球―視床下核―黒質スライス標本を作製する (Fino and Venance, 2010, 2011)。この標本を用いて逆行性標識とペア記録をおこない、基底核の信号伝達における淡蒼球条体投射ニューロンの役割を検討する。これまでの研究で、線条体の直接路ニューロンも淡蒼球外節に枝を出すこと、線条体の間接路ニューロンは淡蒼球外節の周辺部に投射すること(Fujiyama et al., Eur J Neurosci, 2011)、淡蒼球線条体投射ニューロンはこの周辺部に存在することがわかっている。運動関連皮質―線条体―淡蒼球―視床下核―黒質を含むスライス標本を用いて図4のように線条体の直接路ニューロンおよび間接路ニューロンを起点とした別のネットワークが存在するかどうかを検証する。 (2)麻酔下ラットの線条体および淡蒼球外節ニューロンの傍細胞記録とGABA受容体の同定(光顕および電顕)(申請者:藤山、分担者:苅部) 傍細胞記録により、まず淡蒼球外節の単一ニューロンの発火活動をガラス電極で確認する。これまで得られたニューロンの反応特性が生体内でも認められるか検証する。同じガラス電極を用いて、荷電した低分子量のビオチン化合物(バイオサイチン)を電気浸透的に注入する。充分な生存期間の後、灌流固定して脳を取り出し、解析する。この実験により、淡蒼球線条体投射ニューロンとそれ以外の淡蒼球投射ニューロンとの、生体内での電気生理学的特性の違いを知ることができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
電子顕微鏡実験の準備実験(麻酔下ラットの線条体および淡蒼球外節ニューロンの傍細胞記録とGABA受容体の同定のための準備実験)を平成25年度に準備しておく予定であったが、電子顕微鏡の故障により、26年度に延期になったため、その経費が25年度から26年度に変更になった。 上記のように、26年度に変更になった予算は電子顕微鏡の準備実験(麻酔下ラットの線条体および淡蒼球外節ニューロンの傍細胞記録とGABA受容体の同定のための準備実験)に使用する予定である。
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