研究課題
ヒト脳の神経回路は、無数の神経細胞から構成されている。精神疾患は、この神経回路の変化が原因である。ヒト脳の神経回路を健常例と疾患例で解析・比較すれば、疾患に特徴的な回路を明らかにできると考えられる。研究代表者は、これまでヒト脳神経回路を解析する研究を進めてきた。既に、X線マイクロトモグラフィ法を用いて、ヒト脳の神経回路が決定できることを報告している。本課題では、この方法を健常例および疾患例のヒト脳組織に適用し、神経回路を解析・比較することを目的としている。精神疾患に伴う回路変化を明らかにできれば、発症機構に基づいて治療法を確立するための重要な一歩となる。そのような疾患例に特徴的な構造の抽出を行うにあたっては、複数症例のヒト脳組織検体を重元素で標識して、解析に適した均一かつ精細な三次元像を得ることとともに、それら構造をトレースして、神経ネットワークを解析することが重要である。そこで本年度は、比較検討に十分な症例数となるよう、引き続き測定検体を準備して測定実験を進めるとともに、これまで検討してきた専用のアルゴリズムを適用して三次元像の自動的な解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、複数症例での測定検体を準備して、放射光施設でのマイクロトモグラフィ実験を行うとともに、専用のアルゴリズムを組み込んだソフトウエアを用いて三次元構造を解析する研究を進めた。測定は6月と11月に実施し、コンピュータによる自動解析も応用段階に達している。年度前半には米国顕微鏡学会より研究全般に関して解説論文を書くよう依頼を受け、同学会誌Microscopy Today 2015年9月号でFeature Articleとしてこれまでの成果を発表している。
本研究ではヒト検体を対象として、三次元構造の解析を行う。ヒト組織を研究で用いることに関しては、関連する医療機関・研究機関での臨床研究等に関する倫理審査を経て研究実施の認可を得ている。また、所属研究機関においては、ヒト検体を研究に用いることの倫理的事項を所管する委員会の審査を経て、研究の実施が認められている。今後も、これら審査で認められた内容に基づいて研究を進める。本研究はヒト検体を用いることから、特に脳組織の部位や疾患に関する知識が求められ、疾患例の剖検検体の解析は、専門の知見に基づいて行う必要がある。また、X線像の撮像では、最新のX線光学系も適用する計画としている。このため、各分野を専門とする連携研究者の協力を得て研究を実施する。これまでの研究では共同して成果を得てきており、今後もこの関係を基盤とする。
解析結果は確認しながら行うこととしていたが、自動化が想定よりも有効であったため、予算面でもその効果が得られた。差額分は年度内にも有効活用するとともに、一部を次年度使用とすることとした。
今後も予想される状況を複数想定して、予算項目を設定していくが、構造解析の結果によっては執行額が増減することも見込まれる。多様な場合に対応して円滑に研究が進められるように、追加でデータを測定することや、検体を調製する各種試薬・器具類に使用する等、複数の選択肢を設ける。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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