研究課題/領域番号 |
25282250
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
水谷 隆太 東海大学, 工学部, 教授 (70272482)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経回路 / マイクロトモグラフィ |
研究実績の概要 |
ヒト脳の神経回路は、無数の神経細胞から構成されている。精神疾患は、この神経ネットワークの変化が原因である。ヒト脳の神経ネットワーク構造を健常例と疾患例で解析・比較すれば、疾患に特徴的な変化を明らかにできると考えられる。 研究代表者は、これまでヒト脳の神経ネットワーク構造を解析する研究を進めてきた。既に、X線マイクロトモグラフィ法を用いて、ヒト脳の神経回路が決定できることを報告している。本課題では、この方法を健常例および疾患例のヒト脳組織に適用し、神経ネットワーク構造を解析・比較することを目的とする。精神疾患に伴う変化を明らかにできれば、発症機構に基づいて治療法を確立するための重要な一歩となる。 疾患例に特徴的な構造の抽出を行うにあたっては、複数症例のヒト脳組織検体を重元素で標識して、解析に適した均一かつ精細な三次元像を得ることとともに、それら構造をトレースして、神経ネットワークを解析することが重要である。そこで本年度は、当初計画にはなかったが、米国アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Source (APS)においてPrincipal Investigatorとして測定課題を取得して放射光実験を行い、X線像データから三次元像を得た。また、これまで利用してきたSPring-8においても同様に測定課題を実施した。これらはそれぞれナノメータースケールあるいはマイクロメータ―スケールでの可視化を目的としたものである。得られた三次元像をもとに、専用のアルゴリズムを適用することで、神経ネットワークや毛細血管の構造モデルを構築した。解析については前年度までのデータも含めて研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、複数症例での測定検体を準備し、研究計画に沿って2016年6月に米放射光施設APSでナノトモグラフィ実験を行い、また、9月には国内のSPring-8においても実験を行った。得られたデータをもとに、専用のアルゴリズムを組み込んだソフトウエアを用いてワイヤーモデルを構築し、ヒト脳組織の三次元構造を解析する研究を進めた。関連する申請者らによる研究成果は、マサチューセッツ工科大学傘下の団体が発行するMIT Technology Review誌上において、記事として紹介された(2016.9)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではヒト検体を対象として、三次元構造の解析を行う。ヒト組織を研究で用いることに関しては、関連する医療機関・研究機関での臨床研究等に関する倫理審査を経て研究実施の認可を得ている。また、所属研究機関においては、ヒト検体を研究に用いることの倫理的事項を所管する委員会の審査を経て、研究の実施が認められている。今後も、これら審査で認められた内容に基づいて研究を進める。 本研究はヒト検体を用いることから、特に脳組織の部位や疾患に関する知識が求められ、疾患例の剖検検体の解析は、専門の知見に基づいて行う必要がある。また、X線像の撮像では、最新のX線光学系も適用する計画としている。このため、各分野を専門とする連携研究者あるいは海外の研究協力者の協力を得て研究を実施する。これまでの研究では共同して成果を得てきており、今後もこの関係を基盤とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りの予算執行ができたが、各種価格の変動等により次年度使用が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、国内外の放射光施設での測定実験や、これまで得られたデータの解析を進めるために予算項目を設定していく予定である。放射光実験を実施するための旅費や、測定の際の消耗品相当額の負担、あるいは、データ解析の際に必要となる記録媒体等で予算が切迫することが見込まれ、主にこれらの目的で有効活用する。
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