研究課題/領域番号 |
25283015
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
李 建志 関西学院大学, 社会学部, 教授 (70329978)
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研究分担者 |
島村 恭則 関西学院大学, 社会学部, 教授 (10311135)
上水流 久彦 県立広島大学, 地域連携センター, 講師 (50364104)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 先住民 / 比較文化 / マイノリティ / 民俗学 / 文化人類学 / 表象文化論 / ライフヒストリー |
研究概要 |
研究代表者は論文を発表するにはいたらなかったが、その代わり国立歴史民俗博物館編集の『世界民族百科事典』(丸善、印刷中)の事典に項目執筆で、「マイノリティの文学」を担当するなど、文章発表の機会は逃さなかった。また、日本映画の中国表象に関する発表を研究所主催の公開研究会で行った。これらは、本研究で得られた知見を十二分に発揮することができた。また、研究分担者の二名も大きく業績を伸ばしており、これらを有機的に結びつけるための研究会の組織が待たれるところである。 また、研究分担者のうち、上水流氏は精力的に研究活動を行っており、共著本の発行に際して、八重山諸島と台湾との間にある境界をキーワードに、大日本帝国期の記憶をテーマとする論文を発表している。そして、彼の本来の研究領域である台湾漢族社会を、南洋を補助線として考えることで、より立体的な研究を目指して研究をまとめた。 さらに、島村氏は戦後の引揚者の問題とこの先住民の問題を結びつける視点を提供してくれており、極めて重要な位置を占めているといえよう。島村氏のフィールドは日本はもちろん、朝鮮半島や中国大陸から台湾、南洋まではばひろく、日本が戦前に国策で行った満州や南洋の旧開拓農民たちが日本社会でどのように生きているのかという、その人的ネットワークの研究は、今後の先住民を考える際におおいに役立つと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は研究代表者が体調を大きく崩してしまい、けっきょく研究会を開けなくなってしまった。さらに、研究分担者として予定されていた研究者が一名辞退してしまったため、研究組織を組み直さなければならない状態になってしまい、その時間的なロスは相当なものであった。このように、組織的な研究という意味では多少の出遅れ感はある。 しかしながら、基礎的な調査活動や文献渉猟などの面では、一名の不足分を補ってあまりあるほどにカバーされているといえる。また、研究代表者および研究分担者は論文執筆に関して予想以上の活躍をしている。これは、様々な難局を乗り越えようとする研究者相互の意欲のたまものであると考える。また、調査活動のレベルも高く、一年目の研究としてはおおいに成果を挙げているといえる。 研究代表者の体調も徐々に落ち着いてきており、資料の整理などが大幅に進んだため、今後の研究は今までよりスピードアップできるだろう。また、欠員分を補充すべく、一名の研究者に打診しており、平成26年度は研究協力者として参加してもらい平成27年度以降は研究分担者となってもらうという方向で調整している。 以上、様々な問題はあったものの、今は順調な研究をすすめられているといっていい。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、おのおのが調査活動を行った直後である九月に研究会を開く予定である。ここでは、各研究者が問題意識を持って調査したことを発表しあい、相互に問題意識を確認しあうことを目的としている。そのうえで、本研究で問題になっている日本(ヤマト)のひとが南洋や北海道などを開拓したときの「開拓する」側の論理と、開拓された土地にもともと住んでいた人々の関係性を掘り下げていこうと考えている。 北海道は「開拓」ということばでより多く語られるが、これらの記憶は、アイヌという先住民を無視した考え方、すなわち「和人」が北海道を住める場所に拓いたという記憶を共同化する装置として機能している。このような「開拓の記憶」は、何も北海道に限らず、満州や南洋でもくり返されるのだが、この記憶のあり方の比較や、やはり開拓ということばで無視される先住民としては全く同じではないものの、台湾原住民の表象問題ともリンクしているといえるのではないかと考える。 以上のことから、まずはこの「開拓の記憶」の裏に潜んでいる「未開の大地」という意識について研究していきたい。ここにあらわれるのは、コインの裏表としての開拓と未開のイメージであり、未開の民として単純化される先住民の問題を考えるうえでうってつけの議論となりうると考えるのだ。 そして、年度末までに、次年度の中間報告的シンポジウムのための準備作業を行うこととする。また、それぞれの研究者が、自分の興味にそって論文執筆をすすめていくこととする。それらの論文は、中間発表的シンポジウムへの準備論文となるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者である李が体調を大きく崩してしまい、研究計画に少し狂いが生じたということによる。また当初の予定では、研究分担者となってもらうことになっていた金氏が自己都合により辞退したため、多少の混乱があったことも影響している。ただし、研究がおろそかになったということではなく、調査活動は順調に進んでいるが、予定していた研究会開催と調査出張を次年度に変更したために、繰り越しが生じた。 まずは、全体の研究会や全体での調査出張といった、本年度は行えなかった研究活動を積極的にすすめていくこととする。その際の、会場費や旅費に繰り越した研究費を充てたいと考えている。 また、研究協力者の研究会参加旅費や調査出張費などにも、研究費を有効に活用したいと考えている。 以上、次年次使用となった研究費は、計画的に使用することを、ここに明記する。
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