研究課題
基盤研究(B)
本研究は、最新の記憶研究を取り込むかたちで、哲学、インド思想、文学、美学、心理学、精神科学の共同の下、意識や認識の成立・知の探求・社会生活・幸福にとっての記憶の役割を探り、新たな研究展開の基盤となるものを準備し、更に医療や人類の福利増進に向けて記憶がもつ可能性を示すことを目的とするものであった。具体的には、まず、年に数回研究会を開催し、それぞれの研究を共有し、自分の研究と他の研究との連絡、共通性と相違を明らかにし、相互に自らの研究のための示唆を得ることを目指した。この点については、25年度は期待以上に順調に計画が進み、計8回の研究会(海外の著名研究者によるものが3回)を開催することができた。内容は次のとおりである。25年7月、金山弥平「ギリシア哲学、とくにプラトンにおける記憶」、9月、安川晴基「ミュージアムと集合的記憶のマッピング-ドイツ歴史博物館、ベルリン・ユダヤ博物館、記録センター〈テロのトポグラフィー〉を例に-」、10月、木俣元一「ゴシックのステンドグラスを読む-物語と記憶」、11月、アショーク・アクルジュカル「インドの実践と理論における記憶の奇跡」、リック・ベニテス「白鳥プラトン:哲学者、 詩人、アポロンの神官」、リック・ベニテス「プラトン『メノン』における相互記憶と想起 」、平成26年1月、泉美知子「宗教建築と記憶―近代フランスの文化財保護運動の観点から」、2月、兼本浩祐「解離性障害における「意識」の障害 ―脳の中の記憶と脳からはみ出す記憶―」。また各自の研究も、それぞれの領域で国際的にも優れた研究発表および研究論文につなげることができた。これについては「研究発表」を参照されたい。
1: 当初の計画以上に進展している
研究会で25年11月に話していただいたアショーク・アクルジュカル教授は、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)の名誉教授、インド研究の国際的権威であり、またリック・ベニテス教授は、シドニー大学(オーストラリア)の教授であって、いずれもその分野において著名な学者であり、こうした場が、たんに意見交換の機会として機能しただけではなく、将来の研究のための国際的ネットワーク構築にも非常に有益なものとなった。例えば、研究代表者の金山はその後、26年2月から3月にかけてシドニー大学を訪問して講演を行う機会を得、古代哲学のみならず古代の歴史、文学の研究者たちとも将来性に満ちた関係を築くことができた。また分担者の畝部は、インドに赴いて研究を進めたが、そこからインド工科大学ボンベイ校のクルカルニー教授と研究交流をする機会を得、さらに26年の11月、同大学で、インドの研究者たちとともに、記憶に関するシンポジウムを開催することになった。この計画は具体的に実現しつつある。
26年度以降も、25年度と同じ方針で、研究集会・講演会を一般公開の形で定期的に開催し、各研究者の発表を通して、本研究に関わる研究者のそれぞれが自分の研究のための示唆を得るとともに、各々の新たな発想を質疑応答を通してさらに精緻化し、将来の研究の基盤としていく。並行して、各研究者はそれぞれの専門領域においても、国内外での資料収集、実験、意見交換等を通して、自らの研究を深め、精度を高めていく。これによって、最終年度である27年度のための準備を着実に進めていくことが可能となる。最終年度には名古屋大学において国際シンポジウム(海外の研究者少なくとも2名と、研究メンバー数名によるシンポジウム)を一般公開で開催することを計画しており、そのための準備も進めていく。
一つには、26年度のシンポジウム、および最終年度の国際シンポジウムのための経費を考慮する必要があった。また海外から招聘する研究者について、他の経費で充当できた面も大きい。さらに実験系の研究において、25年度はサーベイ期間、26年度を実験にあてるという全体的計画もまた、次年度使用額が生じた理由である。一方では、海外からの研究者招聘のため、また他方では実験の謝金等で、「次年度使用額」となった経費を用いる予定である。
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