研究課題/領域番号 |
25284019
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
市田 良彦 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (70203099)
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研究分担者 |
長原 豊 法政大学, 経済学部, 教授 (10155963)
立木 康介 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70314250)
小泉 義之 立命館大学, その他の研究科, 教授 (10225352)
王寺 賢太 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (90402809)
沖 公祐 香川大学, 経済学部, 准教授 (60361581)
佐藤 吉幸 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (90420075)
佐藤 淳二 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30282544)
佐藤 隆 大分大学, 経済学部, 准教授 (50381025)
崎山 政毅 立命館大学, 文学部, 教授 (80252500)
布施 哲 名古屋大学, その他の研究科, 准教授 (60345840)
中山 昭彦 学習院大学, 文学部, 教授 (80261254)
上田 和彦 関西学院大学, 法学部, 教授 (90313163)
廣瀬 純 龍谷大学, 経営学部, 准教授 (70388156)
藤井 俊之 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30636791)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 思想史 / 政治思想「国際研究者交流」(フランス、アメリカ) |
研究概要 |
「現代思想と政治」の関連について、主として1960年代に焦点を当てた研究会を延べ9回もち(研究発表は20)、その集約点として平成26年2月1日に国際シンポジウム「ポスト68年の思想と政治ー階級闘争から社会運動へ?」を開催した。 A部門のマルクス主義関連では特に「68年5月」がもたらしたとされる「階級闘争から社会運動へ」という変化について考察し、「現代思想」との関連においては、この変化図式が「政治の自律」論とのかかわりにおいて問題にされるべきであるという論点が浮かび上がってきた。また「マルクス主義経済学」を歴史的に相対化するため、剰余論と労働論を「政治」との関係において分析する視点が形成された。B部門の精神分析関連では、ラカンの「四つのディスクール」論が「68年5月」への精神分析からの応答であること、ラカン派の形成そのものが大学制度による専門家要請への異議申し立てをはらんだ実践であったことが確認された。さらにいわゆる「症状」が、理論の内部においても、主体による「抵抗」の契機をもったものとして認識されていた点が明らかになり、そこに精神分析に固有の「政治」を見る可能性が検討課題として浮かび上がってきた。C部門の政治哲学関連では、アドルノ、ベンヤミン、レオ・シュトラウス、ランシエール、アーレント、ロザンヴァロンなどの政治論を相互に突き合わせて検討することにより、「リベラリズム」、「福祉国家論」、「反乱(=革命)」論の分岐点と接合点を明確にした。 全体としては、「現代思想」がその後の政治思想に対し、批判的に先駆的な問題を提出していたこと、しかしそれを現代の政治状況把握に生かすためには、当時見過ごされていた論点を明確にしなければならないことが確認され、その両者を結ぶ論点として「主体」の観念について討究を深める必要性が浮き彫りになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
延べ9回の研究会で20の研究発表を得ることができた。当初目標とした1960年代については、参加者の間でおおむね認識を共有することができた。特に「68年5月」を見る視点については、従来の「階級闘争から社会運動へ」という変化図式に含まれる問題点を明らかにすることができたと考える。すなわち、70~80年代に活発となった「社会運動」論に収まりきれない「政治」論が68年前後にすでに萌芽的ではあれ多数提出されており、今日ではそれらが必ずしも自覚されないまま多方面で再問題化されている、という点である。 個別の論点としては、A部門では佐藤隆の「労働請求権」論、沖公祐の「余剰」論、長原豊の「レント」論が、マルクス主義経済学と「現代思想」の接点を抽出した。B部門では、立木康介を中心にラカンの「現実界」概念が「政治主体」の理論的把握に及ぼした影響が分析された。C部門では、リベラリズムと社会民主主義と「現代思想」の従来曖昧であった境界線と相互の影響関係が、アーレント、ロザンヴァロン、シュトラウス、ドゥルーズ=ガタリなどの分析を通じて浮き彫りにされた。 3研究部門に共通する問題として「主体概念の変容」を浮かび上がらせることができた点は大きな達成であり、それを軸に海外研究協力者(エチエンヌ・バリバール、ブルーノ・ボスティールス)とともに国際シンポジウムの準備に入っている(平成27年1月開催)。研究の中間報告として論文集を編纂する準備もはじまっている。 ただし、研究が「68年5月」前後に焦点化したため、60年代前半における科学史・科学哲学の意義(政治哲学部門)、疎外論の見直し(マルクス主義部門)、心理学と精神分析の関係(精神分析部門)などについて課題を積み残した面もある。とりわけ疎外論は、今日ネグリやバディウによって主導されている「主体」概念の復権との関係において再考する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の前身である共同研究「ヨーロッパ現代思想と政治」(京都大学人文科学研究所)の成果と合わせて、平成26年度中に中間報告書(論文集)をまとめる。報告書では、①今日見られる「政治」概念の曖昧さと多様性を「現代思想」の視点から批判的に明らかにしつつ、②「現代思想」が理論的に葬ったとされてきた「主体」概念が、ほかならぬ「現代思想」のなかで意味を変えて問題にされ続けてきたこと、③さらにそこに「政治」論との接点が生まれたことを包括的論点とし、それを軸に個別論文を配する予定である。なお同じ論点による国際シンポジウムを平成27年1月に開催するが、それまでにも招請研究者(バリバール、ボスティールス)およびその他海外研究協力者(クリスティーン・ロス、ヤン・ムーリエ・ブータン、スラヴォイ・ジジェク等)とメール等による綿密な意見交換を行い、彼らとの討論結果をシンポジウムに反映させ、本研究に国際共同研究としての実質を与える。 また、B部門において精神分析サークルとその外部の関係について理論的に分析を深めるために、鹿児島大学歯学部准教授信友建志を研究分担者に加える。またC部門に京都大学人文科学研究所助教田中祐理子を加え、科学史・科学哲学の動向(とりわけジョルジュ・カンギレームの仕事)を政治思想史との関連において分析する任に当たらせる。研究参加者(分担者、協力者、連携研究者)全員の研究会のほかに、部門責任者(長原、立木、小泉)に市田と王寺を加えたメンバーによる会議を適宜開き、部門毎の研究進行状況をチェックするとともに、上記包括的論点を各研究者の個別テーマと有機的に結びつける方策を練る。上記シンポジウム以外でも、海外の研究協力者と連携を深めるため、研究会に招聘する(秋にニューヨーク大学教授クリスティーン・ロスを招く予定)。
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次年度の研究費の使用計画 |
京都大学人文科学研究所の「全国共同利用共同研究拠点経費」から、本研究とメンバーの一部が重なる共同研究「ヨーロッパ現代思想と政治」に対し140万円の助成金が支給されたため、延べ9回の研究会開催費用のうち2回をその補助金によって賄い、さらに図書資料収集費用にもあてることができた。なお科研費取得後に参加したメンバー(分担者、協力者)については、その2回の研究会への参加旅費を科研費から支払い、二つの研究の連続性が保たれるようにした。 今年度も上記「拠点経費」より70万円が助成されるが、本研究の基金繰越額と合わせて、研究会および研究打ち合わせ会議の開催回数を増やすために使う。本年度は研究の中間報告として論文集をまとめる予定であるが、研究の遅れたところ、新たに課題として浮かび上がってきた点をカバーしつつ論文集を準備するため、研究会と打ち合わせ会議の回数を増やす必要がある。
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