研究課題/領域番号 |
25284019
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
市田 良彦 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (70203099)
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研究分担者 |
長原 豊 法政大学, 経済学部, 教授 (10155963)
小泉 義之 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (10225352)
佐藤 淳二 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30282544)
佐藤 隆 大分大学, 経済学部, 准教授 (50381025)
布施 哲 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (60345840)
沖 公祐 香川大学, 経済学部, 教授 (60361581)
立木 康介 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70314250)
廣瀬 純 龍谷大学, 経営学部, 准教授 (70388156)
中山 昭彦 学習院大学, 文学部, 教授 (80261254)
上田 和彦 関西学院大学, 法学部, 教授 (90313163)
王寺 賢太 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (90402809)
佐藤 吉幸 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (90420075)
田中 祐理子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30346051)
信友 建志 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (60735348)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 思想史 / 政治思想「国際研究者交流」(フランス、アメリカ) |
研究実績の概要 |
「現代思想と政治」の関連について1970~80年代に焦点を当て、延べ8回の研究会をもった。その集約点として平成26年11月13~14日に、アメリカからハリー・ハルトゥーニアンとクリスティン・ロスを招いて研究集会「革命・歴史・想像力」をもち、平成27年1月12日には、フランスからエティエンヌ・バリバール、アメリカからブルーノ・ボスティールズを招請してシンポジウム「政治・主体・〈現代思想〉」を開催した。資金面では両催しともに公的機関(早稲田大学および京都大学)から一部助成を受けることができた。 研究会全体としては、「構造主義」と「ポスト構造主義」の連続性を「政治主体」に焦点を当てることにより明確化し、それを上記シンポジウムにおいて討論した。その結果、新しい論点として①両方に共有されていた「出来事」観が今日崩れていること、②「政治主体」は18世紀に遡って再考されるべきこと、③「政治主体」の統一的「理論」が今日困難になっていること、が提出された。 A部門(マルクス主義)では、経済学と国家論の接点が洗い直され、70年代の「再生産論的転回」が、この接点を等閑視したこと等が明らかにされた。B部門(精神分析)では、ラカン派の成立が「68年5月」の思想を取り込むかたちで理論化され、「パス」という独自の制度に結実していったこと、そこに「疎外論」の再解釈が結びつき、「純粋精神分析」の概念が確立されていったことが確認された。C部門(政治哲学)では、「構成的欠如」という概念が練り上げられ、それとの関連で、ドゥルーズ=ガタリとバディウの差異、レオ・シュトラウスとフーコーの類似性などが提起された。 前記シンポジウムの記録は京大人文研の欧文研究紀要の特別号として、またH26年度までの研究成果は単行本の論文集として、それぞれ刊行する準備を進めており、ともに平成27年度中に刊行する目処が立っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の延べ8回の研究会では、1970~80年代という「現代思想」にとっての転換点(「構造主義」から「ポスト構造主義」へ)を扱うことで、研究対象とした思想家それぞれに固有の「政治」観をいっそう浮き彫りにすることができた。二つのシンポジウムを準備する過程で浮き上がった「政治主体」問題が、対象にアプローチする際の共通視角としてうまく作用したためと考えられる。 そうした点は部門ごとの研究の相互連関の進展によく表れている。主としてA部門で議論された資本主義論と国家論(権力論)の交錯は、C部門におけるドゥルーズ=ガタリの精神分析批判に、従来の「分子革命=ミクロ政治」像とは異なる政治観を見いだすことを可能にした。そしてそれは、B部門におけるラカン派精神分析の成立史研究に、ドゥルーズ=ガタリやフーコーとの対抗関係という今日かなり一般化している見方とは異なる視点を提供した。対抗する両者の同時代性を見ることができるようになったのである。その結果、A部門において「マルクス経済学」という視角からドゥルーズ=ガタリを読む可能性も開けた。 こうした相互連関が進展することにより、バディウやランシエールといった旧アルチュセール派、ブランショからデリダに受け継がれる思想的傾向、今日復興著しいベンヤミン、「現代思想」とは別の傾向をなすと見なされてきたレオ・シュトラウスなどについて、個別に研究するのでは得られない比較思想史的観点から論じることが可能になった。「現代思想」の成立に大きな役割を果たした「科学史(フランス・エピステモロジー)」が、「政治」を問題にしたときにどう位置づけられるかについても見通しが立ってきた。 現在準備中の論文集では、それぞれの論文を草稿段階で交換して意見を述べあう作業を進めており、共同研究としての実質をもった中間報告となると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
各人が執筆中の論文を5月を目処にいったん集約し、検討会を開いて全員で各論文を論評しあったうえで、それぞれの完成稿を作成するというステップを踏む。また、その議論のなかで、最終年度に集中的に取り組むべき課題をより限定する。これまでの2年間はおおむね時代ごと、思想家ごとに研究を進めてきたが、最終年度は部門間の相互乗り入れを可能とする「概念」を中心に研究を進める予定である。 この作業と並行として、秋にフランスからアラン・バディウを招請して、研究の集大成となる国際シンポジウムを開催する。氏の内諾はすでに得ている。バディウは「現代思想」においてもっとも「政治」を論じてきた哲学者であり、近年は過去の仕事(1960年代にまで遡る)まで世界的に盛んに検討されている。これまでの研究会での議論を踏まえた問題設定のためのテキストを事前に用意し、それに応答を求めるというやり方をすることで、国際共同研究の実質をもつようにする。平成26年度に招請したバリバールおよびボスティールズとの研究交流はメール等を通じて継続されており、彼らとの議論もシンポに反映させるようにする。研究代表の市田は6月にフランスとイタリアにアルチュセール関連の国際シンポに出席し、そこでの討論も本研究およびシンポに反映させる。 最終年度の研究と国際シンポジウムの両方をリンクさせるかたちで、共同研究の最終成果報告書を準備しはじまる。現在準備している中間報告では、「1968年」を中心に、「それ以前」、「それ以降」という三つの時代区分により全体を構成しているが、それを前記の「概念」を中心にした構成に変え、「現代思想と政治」を一つの統一的問題として提示するよう努める。その「概念」としては、「統治」、「制度」、「欲望」、「決断」、「外部」、「科学」などが候補として考えられるが、これについてはさらに検討を加え、相当程度絞り込む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度開催予定の国際シンポジウムにかかる経費の一部(海外研究者2名の招聘費用)が概算でしか分からないことと、追加で必要となると予想される海外研究調査の規模にやや不透明な点がある、という二つの理由により、基金の一部を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
国際シンポジウムについては、現在、京都大学の助成金「国際会議費」を申請中である。これが通れば招聘費用は十分足りるので、追加の海外研究調査をすべて実施することとし、通らなければ、その調査規模を縮小する。
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