研究課題/領域番号 |
25284024
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
原田 一敏 東京藝術大学, 大学美術館, 教授 (20141989)
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研究分担者 |
薩摩 雅登 東京藝術大学, 大学美術館, 教授 (80272657)
黒川 廣子(横溝廣子) 東京藝術大学, 大学美術館, 准教授 (90205229)
古田 亮 東京藝術大学, 大学美術館, 准教授 (20259998)
芹生 春菜 東京藝術大学, 大学美術館, 助教 (60542305)
松村 智郁子 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (60436699)
亀海 史明 東京藝術大学, 大学美術館, 研究員 (40711635)
松下 倫子 東京藝術大学, 大学美術館, 研究員 (60711603)
斎藤 菜生子 東京藝術大学, 大学美術館, 研究員 (20722094)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 東京美術学校 / 古写真 / ガラス乾板 / 美術教育 / 日本近代美術史 |
研究実績の概要 |
本研究は、本学の前身である東京美術学校(明治22年開校)が収集してきた1万枚余りのガラス乾板をはじめとする、写真資料の総括的研究である。 研究の対象となる資料は、歴代の所蔵品の分類法にしたがい「写真種板」とされるガラス原板と、「写真」とされる紙焼き写真の2種に大別される。研究開始当初はガラス原板の調査整理、およびデジタライズ作業を主とし、紙焼き写真の調査は補助的作業と位置づけてきた。しかし調査が進むにつれ、本学の紙焼き写真はガラス原板からプリントした整理用の付属物であるケースは稀で、むしろガラス原板にはないカットを多く含み、少なくともガラス原板と同等に扱うべき重要な資料であることがわかってきた。 また、ガラス原板に乾板だけでなく湿板が含まれることや、背景の塗りつぶしや乳剤層を一度剥がして貼り直すなど加工の痕跡が見られることも、調査の進展にしたがい明らかになってきた。 さらに、美術学校という教育の現場に携わった人々が、いかに写真術を取り入れ、資料を学内に残すに至ったかというテーマについても、資料をまとめつつある(成果の一部は、亀海史明「東京美術学校臨時写真科の経緯について」『東京藝術大学大学美術館年報 平成24年度』、同「東京美術学校臨時写真科の教育方針と活動について」『同年報 平成25年度』で発表している)。 ガラス原板のデジタライズ作業は、研究年度2年目になる当該年に軌道に乗り、状態調査と保全作業を並行しながら、すでに全体の半数近くに及んでいる(10,210枚のうち4,675枚完了)。今後はこのデジタライズ作業の進捗をはかり、被写体となった事物の分析を進めるとともに、資料自体の観察から得られた知見とあわせ、画像とこれに付随する情報を網羅した総合データベースの完成を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で主要をなすガラス原板のデジタライズ作業は、資料の保存状態の悪さや、予期しなかった新しい事例(上述した湿板資料や、多種多様な原板加工のな実例など)の発見によって作業量の増加があったにも関わらず、おおむね順調に進められている。 しかし、調査の展開によって重要性が増した紙焼き写真資料については、台帳情報と実際の保管状況との齟齬が当初の予測より大きいことが明らかになり、加えて予期しなかった周辺資料も新たに発見された。このため、デジタライズ以前の予備調査の量が予測を大幅に上回り、昨年度末に予定していたデジタライズ作業を新年度に繰り越した。 本研究では作業場所・人員・学内スケジュールとの兼ね合いにより、デジタライズ作業は授業期間外の夏期と年度末のの2期に分け、集中して行っている。このため、年度末の作業の延期が年度を跨ぐことが避けられなかった。次年度に繰り越された紙焼き写真資料のデジタライズは、ガラス原板の作業と並行して準備が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、収蔵したまま資料としての活用が困難であったガラス原板および関連する写真資料を、総合的に調査し、史的に位置づけることを目的とする。画像とその情報が一覧できるアーカイヴの構築は、その手段であり、またそれ自体が成果物ともなる。現在進行中のデジタライズ作業と、得られた画像の分析、資料そのものの物質的調査と記録などは、エクセルベースのデータ一覧にまとめられている。今後は引き続き、調査とデジタライズ作業を推し進め、その完遂を目指す。 画像と基礎情報が紐づけられた閲覧システムは、まずは研究チーム内での活用を念頭において構築を進める。さらなる関連資料の整備により、個々の写真の撮影事情や納入経緯などの背景を含む、より詳細なアーカイヴ構築に繋げていく。 今年度はさらに、資料から美術史や近代史、教育史に関わる研究課題をピックアップし、個別具体的なテーマ研究の下準備に入りたい。(1)美術(彫刻や絵画など)の制作過程における写真術の利用、(2)イメージの伝達手段としての写真収集と教材としての具体的使用法、(3)記録としての写真から読み取る人とモノの動き(学内における写真生産、古社寺調査、海外旅行、展覧会実施)等が現在のところ想定されている。 したがって今年度は、資料の拡充と統合化(=データベース化)と、古写真資料の史的研究に向けてのテーマ設定の掘り下げを、並行して行っていくことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定されていた紙焼き写真資料のデジタライズ作業を、すべて次年度に持ち越したため。紙焼き写真資料の調査が進むにしたがい、整理の基準としてきた台帳情報と、実際の保管状況の乖離が予想より大きいことが明らかとなり、時間をかけて慎重かつ徹底したインスペクションを経てデジタライズすべきとの結論になった。また予定外の資料の発見があったことも、その理由の一つである。 人員配置や作業場所の確保の都合で、当該作業が年度末に予定されていたため、作業の延長によって年度を跨ぐことが避けられなかった。 紙焼き写真は、ガラス原板と比較しても同等の重要性を有することが明らかとなってきた。美術教育の場における写真使用の実態解明を目指す本研究にとっても、欠かせない資料であると見なされる。したがって全体の調査から、紙焼き写真を除外することはできないと判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
紙焼き写真資料のインスペクションは、これまで台帳記載のリストを前提に進められてきたが、実際の保管状況にあわせてリストの一部改訂が必要となっている。これはデジタライズ作業において非常に重要な、デジタル画像のナンバリングに直結する問題であるので、念入りに調査を進めている。 この作業が終わり次第デジタライズ作業の準備に入り、夏期には実施を予定している。ガラス原板に比べ扱いやすいものの、サイズや形状のバリエーションがあるため作業時間の予定がやや立ちにくい。そこで、夏期に完了できなかったものは、年度末までに完了するよう、無理のないように計画している。
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