研究課題/領域番号 |
25284025
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
大角 欣矢 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (90233113)
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研究分担者 |
花岡 千春 国立音楽大学, 音楽学部, 教授 (00282153)
塚原 康子 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (60202181)
片山 杜秀 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (80528927)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 信時潔 / 近代日本の作曲家 / 近代日本洋楽史 / 東京音楽学校 / 自筆譜 / 音楽資料 / 資料目録 / 作品目録 |
研究実績の概要 |
1.信時潔関係資料・作品調査と目録データベース作成。東京藝術大学附属図書館所蔵の資料を中心に、①手稿資料情報(楽譜の状態など)58件、②個別作品情報(①に含まれる各曲単位の情報)3619件、③五線紙情報(商標等)24件その他の情報を追加・更新した。未発表作品等の草稿も数点確認された。また信時旧蔵出版譜・図書等3338点のうち、和書422点、洋書298点、楽譜182点、計902点の目録情報を、書き込み等資料状態の情報とともに入力した。 2.《海道東征》を巡る多角的研究。代表作、交声曲《海道東征》(1940年)を巡って、資料・成立史・上演史(信時裕子)、楽曲構造と分析・解釈(大角欣矢)、近代日本洋楽史における位置づけ(片山杜秀)、東京音楽学校の演奏活動における位置づけ(橋本久美子)と多角的な視座から研究を行い、その成果を東京藝術大学「信時潔没後50周年記念プロジェクト:シンポジウム《海道東征》とその周辺」にて発表するとともに、同プロジェクト《海道東征》全曲演奏会のプログラム冊子(及び同公演実況録音CD添付のブックレット)として公表した。また、同演奏会では、本研究を通じて新発見された《Kinder Trio》のヴァイオリンとチェロのパート譜を用いたり、資料研究に基づき《海道東征》の楽譜の訂正・解釈を行うなど、本研究の成果を反映させた。成果の一部は、東京藝術大学附属図書館貴重資料展でも発表した。 3.初期作品の継続研究。昨年度行った楽曲研究の成果を踏まえ、《越天楽 Variationen》と《Vivace assai》の初録音(花岡千春)、国楽の文脈から見た初期作品の位置づけの検討(大角欣矢)を行った。 4.伝記的調査。和歌山の寺院の過去帳、県立図書館所蔵の史料、信時家子孫へのインタビューなどを通じ、従来詳しく知られていなかった、信時潔が養子となった信時家とその周辺に関する調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
信時潔関係資料・作品調査と目録データベース作成については、当初の計画では新規データ入力が最終年度までかかる見込みであったが、その前年度である本年度においてほぼすべての新規入力を完了し、信時旧蔵出版譜・図書等目録で積み残した63点に関しても、本報告書の執筆時点においてすでに完了している。これにより、最終年度は作成したデータベースの公開用フォーマットの検討と、それへ向けたデータの見直し・修正作業等に注力できることとなった。 また本年度は、東京藝術大学が主催する「信時潔没後50周年記念プロジェクト」とタイアップすることで、《海道東征》その他の演奏会(2015年11月28日)への資料・情報提供、プログラム執筆、コンサートのプレトーク、連携シンポジウム、CD制作、使用される楽譜の修正などへの協力を行ったほか、附属図書館主催の貴重資料展「東京音楽学校初演から75年:『海道東征』展」(2015年11月17日~12月14日)や、同館主催「SPレコードコレクションによる蓄音機コンサート:信時潔没後50 年を記念して」(2015年12月5日)を通じて、当初の計画を上回る規模と多様な側面を通じて、本研究の成果を発表・活用し、社会に還元することができた。本研究の成果が、未録音だった初期作品《越天楽 Variation》等のCD発表に繋がったことや、信時家にまつわる歴史的調査が実現したことも、当初の計画には無かったことであり、特筆すべき成果と言える。 以上のような理由から、本年度の研究課題進捗状況は、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成28年度は、信時潔関係資料・作品調査と目録データベースのウェブ公開に向けて課題を精査し、データのチェック、公開の方法や運用ポリシーの策定、試験運用等を経て年度末までに本格運用を開始する。 主要作品研究については、当初の計画では最終年度には後期(昭和戦後期)の作品を取り上げる予定であった。しかし、前々年度及び前年度における作品研究の深まりを踏まえた結果、明治末期から昭和戦前戦中期に至る「国楽創成」を巡る歴史的コンテクストの中に、信時の初期・中期(戦前戦中期まで)の作品群を位置づけるためには、さらなる各種言説資料の調査分析が不十分であるという結論に達した。これまで、信時の創作活動の歴史的意義を検討するために、明治時代の雑誌における「国楽創成」を巡る言説については概ね調査を終えつつあるが、新聞における同様な調査はまだ網羅性を欠き、さらにこれらの作業を時代を下る形で継続して行く必要がある。そういった作業を経て、信時の初期・中期作品の歴史的位置づけをさらなる具体性をもって解明することができると考える。 したがって今後は「国楽創成」を巡る言説調査に注力し、大きな歴史的コンテクストの中で信時潔の創作活動の意味づけを検討してゆくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
・信時潔旧蔵出版譜・図書等目録データベース入力が効率的に進められ、人件費・謝金が節約できたこと。 ・本年度は遠隔地で開催される関連学会が少なく、旅費が節約できたこと。 ・追加でデジタル画像化の必要性を検討していた資料があったが、上記ほかの経費の執行状況の予想がつきにくく、実施を保留としたため。
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次年度使用額の使用計画 |
・前年度見送った追加の資料デジタル画像化を実施し、今後の研究のための基盤強化を図る。 ・信時潔関連資料・作品目録データベースの公開へ向け、データのクォリティを上げるためのチェックと修正に力を入れる、追加の資料調査を行う、よりハンドリングしやすいウェブ・フォーマットを検討するなど、より良い研究成果公開のために有効に活用する。
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