研究課題/領域番号 |
25284033
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
川村 佳男 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, その他 (80419887)
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研究分担者 |
松本 伸之 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, その他 (30229562)
和田 浩 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, その他 (60332136)
矢野 賀一 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, その他 (60392544)
谷 豊信 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, その他部局等, 研究員 (70171824)
赤沼 潔 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (30267687)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 考古学 / 金属工芸史 / 中国古代史 / 極薄青銅器 / 製作痕 / 三次元計測 / 鋳造実験 |
研究概要 |
古代中国の青銅製容器には、厚さが1ミリに満たない一群(以下、極薄青銅器)があることに注意し、極薄の造りを可能にした技術について、おもに以下の項目に沿って研究を進めた。 (1)表面の形態観察 東京国立博物館が所蔵する極薄青銅器のうち、とくに2点を対象にして、表面に残された製作時の痕跡を肉眼・デジタルファイバースコープによって観察した。その結果、器体を槌で敲き延ばしながら成形した痕跡、複数の細さの鏨を使い分けて刻んだ文様の線など、個別の製作技術と関わる痕跡を捉えることができた。 (2)器体の薄さの分析 3次元計測を実施することで、極薄青銅器の薄さが全体にわたって均一なのではなく、相対的に厚めの部位とより薄い部位のあることがわかった。1ミリ未満の微妙な差ではあるが、この薄さの差がひとつの個体のなかでどのように分布するのかを精査することで、表面に残された製作痕の観察だけでは予測できない製作工程を推定することができた。 (3)鋳造実験 東京藝術大學で合計6回の鋳造実験を行い、約100点の鋳造サンプルを製作した。鋳造サンプルは長さ15センチ、厚さ2ミリの正方形の板を、銅・錫・鉛の配合比を変えながら製作した。2ミリの厚さはキメの細かな土の鋳型で安定的に鋳造し得る最小の数値である。結果、薄く鋳造するのに適した配合比のパターンと、そうでないものを大分することができた。また、配合比を変えることによって多様な地金の色のサンプルを得ることができ、実物資料の地金の色との比較をおこなう用意が整った。これは実験サンプルを敲き延ばしたり、刻んだり様々な加工を施していくに連れて、表面に検出される色や成分比率がどのように変化していくのかを探るうえでも、基準となる貴重なデータである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3カ年計画の初年度は、計測機器の予期せぬ不調のため、計画通りに進まない研究項目もあった。しかし、全体としては、開始して1年間で質・量ともに良好な基礎的データを得ることができたといえる。とりわけ、個別の製作痕の検出、3次元計測による薄さの違いの分布に対する精査、および100点近くに及ぶ鋳造サンプルの製作は、極薄青銅器と鋳造サンプルのあいだにおける観察・分析結果の相互比較を展開させていくうえで、重要な足掛かりとなるものである。
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今後の研究の推進方策 |
(1)表面の形態観察 東京国立博物館以外の館(泉屋博古館・和泉市久保惣記念美術館)が収蔵する極薄青銅器を対象にして、表面に残された製作時の痕跡を肉眼・デジタルファイバースコープによって観察する。その結果、検出される製作痕を東京国立博物館所蔵例のものと比較する。 (2)器体の薄さの分析 東京国立博物館以外の館(泉屋博古館・和泉市久保惣記念美術館)が収蔵する極薄青銅器を対象にして、3次元計測を実施する。極薄青銅器の薄さの違いを計測した全形図のうえに示すことで、東京国立博物館の例と比較検討する。そのうえで、九州国立博物館でCTスキャンを用いて、接ぎ目や溶接痕の有無など、器壁断面や内部構造の観察を行う。 (3)加工実験 東京藝術大学で前年度に鋳造したサンプルを1ミリ未満まで薄くするための様々な加工、たとえば敲き延ばしや削り、および先端の細い鏨による文様の彫刻を施す。実験の進行過程において、サンプルの厚みや表面に検出される色・成分比率の変化を記録し、実際の極薄青銅器のデータと比較する。 最終的に以上の比較を総合して、極薄青銅器の製作技術を個別にではなく、成分配合・鋳造・成形・装飾・仕上げといった一連の工程のなかで位置づけながら復元する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用費として発生した7,210円は、もともと平成25年度に極薄青銅器の関連書籍を購入するための経費の一部であった。しかし、該当する書籍を入手することができず、結果として使用されないまま残った。 ひきつづき、平成25年度に入手できなかった極薄青銅器の関連書籍の購入費に当てる計画である。
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