研究課題/領域番号 |
25284038
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
桂 英史 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (60204450)
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研究分担者 |
西條 朋行 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 講師 (50373014)
長嶌 寛幸 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 准教授 (10621790)
布山 毅 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 准教授 (10336654)
松井 茂 東京藝術大学, 芸術情報センター, 助教 (80537077)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 映像療法 / 映像製作 / アドヒアランス / ワークショップ / 互酬 / コミュニティケア / セラピー |
研究概要 |
平成25年度における本研究では、研究協力を得ている2名の統合失調症慢性期患者の映像製作に早速着手した。基本的に二人の研究協力者に対しては、何の制約も設けない映像製作を促している。具体的にはそのうち一人の研究協力者がすでに12分から15分の短編ドキュメンタリーをほぼ上映可能な状態で3本仕上げている(もう一人の研究協力者は体調不良によって製作を中断している)。仕上がった3本の短編ドキュメンタリーは研究協力者が同じデイケアサービスに通う患者の日々の暮らしを負うドキュメンタリー作品となっている。同じ統合失調症慢性期患者が製作者と撮影対象者となっている点で、作為性やヒエラルキーの成立が最小限に抑えられている。作品の演出、撮影や過程について、対面調査を事後的に行っており、少しずつ生得的な必然性に根ざした創造性や制作行為を捉えることできる。 映像製作に関しては研究協力者のモチベーションがきわめて高いこともあり、予想をはるかに上回る速さで質の高いドキュメンタリー作品が仕上がっている。それとともに、当該作品の研究協力者の慢性疾患は小康状態を維持しており、ご本人からも映像製作が一つの要因ではないかという要因が語られている。 ただ、映像製作を完成させることが第一義となっていて、研究協力者自身が自己を成熟させていく問題解決の過程がいかに成立するのか、つまり映像製作が「療法」として一般化することができるどうかという論点を明らかにする方法論の確立まではまだ明らかになっていない。しかしながら、もう少し精緻な製作プロセスを(事後的であっても)対面調査を続ければ、映像製作が療法として成立する必要条件を明らかにすることができる。それとともに、精神の「治療」を受けることは狂者の烙印を押されることといった偏見を助長することになりかねない「リワーク」が振興される昨今の風潮に一石を投じるものと確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の達成度を3つの研究目的に沿って述べる。 本研究の主目的は言うまでもなく、表現としての「ケア」を追究することによって、「ケア」が新しい芸術表現となり得ることを、実製作を通じて実証することにある。ここで言うプロジェクトタイプとは「型(タイプ)」として、表現の欲動が社会に向けて製作(制作)を伴って現れる形式である。精神疾患の病理を解明することや結果的に定量的かつ定性的に証明することが本研究の目的ではないが、映像製作に製作者本人がケアを実感することがあることを対面調査から得ている。その点で、本研究における研究協力者の映像製作を後方支援する活動は結果として広い意味で「ケア」となっており、医療現場・患者・専門家集団の連携による互酬的関係に基づく映像製作はある程度達成されていると言ってよい。 また本研究で映像は、事実に基づく作品であっても、いわゆる記録映像としての「ドキュメンタリー」という考え方とはいささか一線を画する。現在進んでいる映像製作はデイケアが提供されている医療機関の施設内での製作であり、サイトスペシフィック(その場に特有な)映像にもなっている。その映像作品がもつ強度は第三者が仮にそのプロセスを「セラピー」と呼んだとしても、患者が抱いている心の中のイメージを身近な媒体に変換するという意味で、「イマージュ・ブリュ」(「生のイメージ」の意。アール・ブリュにちなんだ造語)であると自己評価できる。 ただ映像製作によって患者自らが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けるというアドヒアランスを高めることかできるかという命題には、まだ明晰な解答は得られていない。作品に関しては、製作が完成している作品のダイジェスト版をすでに、いくつかの映像祭関係者等に外部評価してもらう試写および研究会を今年度は四回にわたって行っている。
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今後の研究の推進方策 |
映像製作に関しては、一人の研究協力者の製作に関してはそのまま可能な限り継続する。またもう一人の研究者協力者は体調を考慮しながら製作を再開する予定である。どちらのケースについても、このままヒエラルキーや明確な作業分担のないまま、継続予定である。ただ治療転帰に関して、想像力や創造性という観点から変化を観察し検討した実践例や方法論の開発は現在のところ一般化できていない。したがって、研究協力者に負荷をかけないマイクロエスノグラフィーを精神保健衛生福祉士などに協力を仰ぎながら、アドヒアランスを促すコラボレーションのあり方を実践的にかつ一般的に言語化することをめざしている。また、他の方法論、たとえばと、映像療法という方法論の確立は慢性疾患の治療について、現在の治療手段(たとえばセラピーやリワーク)を根本から再考する機会を提供できると考えている。 さらに医療現場・患者・専門家集団の連携による互酬的関係に基づく試験的なワークショップ等を通じて、映像製作がリワークを目的としないショートケアのプログラムとして検証できるどうかについて検証することで、どのような製作プロセスが「セラピー」の要素となり得るのかということについて、研究会あるいは検討会を開催して議論する。 成果発表、とりわけ映像作品の発表に関しては、当然ながら人権問題等に配慮して検討しながら考慮しなければならないが、すでに映像祭や国際映画祭との事務局とは上映企画等に関する検討を始めており、今年度中に何らかの公開の道筋を確立したいと考えている。さらに医療現場・患者・専門家集団の連携による互酬的関係に基づくセラピーのあり方について、本研究における映像製作プロセスを根拠として論じる論文をまとめる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は研究協力者の製作ペースが計画以上に早く、使用状況に応じた機材等に対応することに支出が多くなる傾向が年度当初が顕著となったため、支出の計画を多少修正し、資料整理を行う研究協力者や旅費等の支出は極力抑制することにした。したがって、映像製作を優先し、機材の調達等に重点的に支出した。 なお、50万円以上の高額な機材や設備等の利用が生じた場合は、東京藝術大学大学院映像研究科に既設されているものを使うことを原則としている。機材のほとんど使用状況に合わせて、使用状況に合わせ民生品を中心に選定しており、今のところ機材等で研究協力者との間で齟齬は生じていない。また支出に関しては、研究共同者の合意のもと行っており、この次年度使用に関しても同意している。 平成26年度以降においては、研究協力者の映像製作の進行に応じて、機材の更新や機材の変更を随時行っていく予定である。また平成26年度以降も50万円以上の高額な機材や設備等の利用が生じた場合は、東京藝術大学大学院映像研究科に既設されているものを使うことを原則としている。機材のほとんど使用状況に合わせて、使用状況に合わせた低コストの民生品を中心に選定する。 また平成26年度以降においては、撮影データのタグ付け、サーバでの管理など、高度な映像データの分析と管理が必要となるため、映像研究科の卒業生をはじめとして専門性の高い研究協力者への人件費を予定している。平成26年度に関しては、学外から当該テーマに関する専門家を招聘する研究会を1-2回開催する予定で、謝金の支出を予定している。また国内外の調査に関しては9月から11月の間に予定している。
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