ドイツ演劇学で論争となったプレゼンス論とアブセンス論の統合を目指す本研究は、演劇上演ではプレゼンスとアブセンスの状況がパラドクシカルに生じていることを、現代日本と欧州の演劇作品を例にして明らかにした。この状況が同時かつパラドクシカルであることは、声や身体の動きが「ある」ようにみえるが、そうでは「ない」かもしれないという観客側の受容の不確実さに顕在化される。 本研究はこの不確実な観劇体験を経て、社会で起きる「ある」と「ない」をめぐる問題に対して私たちがより確実に把握する認識姿勢につながることを明らかにした。プレゼンスとアブセンスのあいだの不確実さは、私たちが物事を把握する際の確実さを保証する。
|