研究課題/領域番号 |
25284049
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
赤瀬 信吾 京都府立大学, 文学部, 教授 (70137074)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国文学 / 日本史 / 国語学 |
研究概要 |
平成25年度には、まず〈1〉冷泉家時雨亭叢書未収録の蔵書の精確な調査と検討という課題に取り組んだ。御文庫調査目録を利用しながら典籍・資史料を御文庫から出してきていただき、できる限り精確に調査していった。特に重要と判断される典籍・資史料に関しては、それぞれの内容についてまで検討を加えてみた。その上で、そうした特に重要と判断される典籍・資史料をリスト・アップし、それらの公表に向けた準備作業を行なった。連携研究者の藤本孝一氏には、8月を除いてほぼ毎週、御文庫のみならず御新文庫の典籍・資史料についても、基礎的な調査を行なってもらった。必要に応じて、赤瀬と岸本氏とも調査に加わり、また連携研究者である田中登氏・小林一彦氏・橋本正俊氏・美川圭氏が調査に参加することもできた。それぞれの調査結果については赤瀬が集約し、影印本の形で公表することを前提にリストを作成し終えた。このリスト・アップの作業は、既に公刊された冷泉家時雨亭叢書の後を継ぐものであるが、作成し終えたリストは、そのように称するに耐え得るものとなった。なお、御新文庫に収められる典籍・資史料の調査については、ほとんど藤本孝一氏に依存することとなってしまったが、一定の進展を得ることができた。 また、〈2〉調査・検討を通じてうかがうことのできる、テキスト生成の場の問題の解明に関しては、連携研究者が集合した際に、互いの考えを述べて話し合い、和歌文学会においてシンポジウムを行なうことを予定することができた。具体的には平成27年度初めくらいにシンポジウムを行なう準備を進めている。 なお、未使用助成金が生じたが、これは購入予定の物品がバージョン・アップされる予定であったり、その他経費の使用をひかえたためであり、適切に執行できている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度には、まず〈1〉冷泉家時雨亭叢書未収録の蔵書の精確な調査と検討という課題に取り組んだ。最終的に赤瀬のリスト・アップした典籍・資史料は約75件に及んだが、リストから外したものを含めると、調査できた典籍・資史料の数は300点を越えている。調査した全体の結果は、調査カードとして冷泉家時雨亭文庫に保存していただくこととした(これは従来からの冷泉家時雨亭文庫蔵書の調査の際の約束事である)。リストに収めた典籍の中には、『風雅和歌集』の最古写本や蒔絵小箱三代集のように従来からある程度は知られていたものもあるけれども、鎌倉時代写の『赤人集』『時明朝臣集』のように、どうして冷泉家時雨亭叢書にもれてしまったのか首をかしげるほど貴重なものもあった。正徹の家集である『草根集』の最古写本や一条兼良自筆『歌林良材集』の発見なども含めて、貴重な収穫が相次いだ。 また、〈2〉調査・検討を通じてうかがうことのできる、テキスト生成の場の問題の解明に関しては、冷泉家時雨亭叢書に収録しきれなかった多くの擬定家本私家集を影印として公表することが可能となったことが大きい。擬定家本私家集については、冷泉家ではなく、二条家のうちのいずれかの家の書写工房で生成されたことが従来から指摘されている。その全貌が公表されることによって、鎌倉時代中期から後期にかけてのテキスト生成の場について、より鮮明で詳細な理解が学界にもたらされるだけでなく、擬定家本私家集の前段階が問題として浮上すると考えられる。歌書の書写と歌壇史研究とは不可分のものであったはずであるが、書写活動は個々の典籍に関して論述される傾向が強く、歌壇史と連動して考えるべき問題であることが、擬定家本私家集の研究から照射されることとなる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、まず〈1〉冷泉家時雨亭叢書未収録の蔵書の精確な調査と検討という課題に取り組んだ平成25年度の成果の公表として、赤瀬の選定しリスト・アップした典籍・資史料のそれぞれについて、より精細・精確な記述を行ない、解題として影印に付して刊行する。第一回として『新古今和歌集 打曇表紙本』『風雅和歌集 春夏』を平成26年11月に、第二回として『擬定家本私家集』を平成27年1月に、第三回として『時明集』『赤人集』などの平安私家集などを同年3月に刊行することを目指す。第四回以後に刊行する予定の典籍・資史料についても、さらに精確な調査を進めて平成27年度のうちに計5回程の刊行ができるように準備する。 また、〈2〉調査・検討を通じてうかがうことのできる、テキスト生成の場の問題の解明に関しては、『擬定家本私家集』を主要な題材として、和歌文学会関西例会でシンポジウムを行なう予定(平成27年4月ころ)であるので、平成26年度内に企画・立案し、準備を終える。『擬定家本私家集』というテキストの生成された二条家の書写工房の問題のみならず、擬定家本私家集から遡って考えられる様々な私家集の書写工房の問題、さらには藤原定家仮託書など、より広い視野の中で中世和歌史研究の活性化をはかる。 以上、平成26年度には、〈1〉の課題を実現し平成27年度以後に続ける準備を行なうとともに、〈2〉の課題を具体化する準備を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入する予定であった『新編国歌大観』や『新編私家集大成』が、バージョン・アップされる予定という評判があったため、購入するのをひかえた。また、連携研究者のなかに本務校での業務が多忙のために調査に参加できなかった者が出たりしたこともあって、人件費・謝金を使用することが、予想していたよりも少なめになった。他の消耗品などを購入する必要もなく、旅費や人件費・謝金の予備とする必要もなかったために、その他経費の使用をひかえた。以上の理由により、次年度使用額が生じた。 連携研究者や研究を補助する人々が、本来の予想どおりに調査に従事すると考えれば、平成25年度の執行状況から見て、旅費および人件費・謝金が多く必要となる可能性が大きい。次年度使用額の大半は、翌年度分として請求した研究費で不足するそうした旅費および人件費・謝金を補填するために使用することとする。
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