研究課題/領域番号 |
25284050
|
研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
廣木 一人 青山学院大学, 文学部, 教授 (30228829)
|
研究分担者 |
堀川 貴司 慶應義塾大学, 斯道文庫, 教授 (20229230)
玉城 司 清泉女学院大学, 人間学部, 教授 (20410441)
尾崎 千佳 山口大学, 人文学部, 准教授 (50335759)
山本 啓介 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (50601837)
深澤 真二 (深沢眞二) 和光大学, 表現学部, 教授 (80218875)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 人文学 / 文学 / 日本文学 / 近世文学 / 韻文学 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世大名家である榊原家、特に3代、忠次、4代、政房、6代、政邦の文芸、和歌・漢詩・和漢聯句・連歌・俳諧を調査し、この三人と密接な関係を持った大名、儒者の林家、連歌師、俳諧師との関わりを明らかにし、近世初期の大名家の文芸のあり方と総合的に探求することを目的としている。 これまでの調査等によって、上越市立総合博物館に寄託されている榊原家の文芸資料の全体像、その資料的価値をほぼ明らかにすることができたが、その上で、忠次関係の詩歌会を中心とした詠草群である『浄晃院様御詠草』の調査、その翻刻、公刊をし、それを受けて、27年度は忠次の私家集『一掬集』、政房の私家集『政房公御詠草』、政邦の私家集『榊葉和歌集』の調査、翻刻をし、これを『榊原三代私家集』と題して公刊した。この刊行に際しては、写真撮影、そこからの翻字作業、数度の確認を分担者全員で行い、翻字などに関する不明点、疑問点などの解決を全員で諮った。 続いて、これらの成果を基盤として、詩歌会の詠草類と私家集との関係、また、この三人に深く関わった人々の調査、その関わりがどうして成立したかなどの探求に入りつつある。このことに関しては、主として大名の江戸屋敷のあり方などを廣木が、林家などの儒者との関係は堀川が、和漢聯句の連衆のあり方、関係の深かった島原藩松平家に残された和漢聯句との関係は深沢が、連歌、宗因に関しては尾崎が、隣接する信州の大名である真田家のありようとの類似、相違は玉城が、榊原家の村上藩主時代の『おくの細道』との関わり、また当時の藩主であった政邦の事跡については山本が主として担当している。 これらの成果は、高田藩があった上越市の関係者、機関を対象にして、平成27年11月22日に、廣木・玉城・堀川・山本が参加し、フォーラム「榊原家の文芸─忠次公(三代)・政房公(四代)・政邦公(六代)」として、公開発表討議をし、公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの調査等によって上越市立総合博物館に寄託されている榊原家の文芸資料の全体像はほぼ明らかにできた。その調査の中から判明したこととは、榊原家の文芸の中心は主として姫路および村上時代、つまり、三代、忠次、四代、政房、六代、政邦時代であり、高田に転封してからは、かれらの残した古典籍、文芸資料を保持するのがそのありようであったとみることができるということであった。 したがって、本研究では平成26年度に三代忠次関係の詩歌会資料である『浄晃院様御詠草』を調査、翻刻、公刊し、27年度は忠次の私家集『一掬集』、政房の私家集『政房公御詠草』、政邦の私家集『榊葉和歌集』を『榊原三代私家集』と題して公刊し終えた。 また、これらを調査することで分かってきたことは、予測はしていたものの、当時の大名同士の文芸上の交流、林家を核とする儒者との関わり、また、柳営連歌師、江戸の僧侶など一定の文人たちとの深い関わりの具体例である。これらは主として詩歌会の記録である詠草、私家集の詞書によって、あらあらの状況が判明してきた。このことは、第一次的な報告として、平成27年11月22日に、フォーラム「榊原家の文芸─忠次公(三代)・政房公(四代)・政邦公(六代)」として、公開発表の形で報告した。関係の深かった大名、島原藩松平家の文芸についても、深沢を中心として調査を始めている。
|
今後の研究の推進方策 |
『浄晃院様御詠草』その他、榊原家史料として保存されている詩歌会の詠草、連歌および俳諧の懐紙、忠次、政房、政邦の私家集などの詞書などから、徐々に、他の大名、榊原家の江戸屋敷に近くにいた林家、その関係儒者、江戸の柳営連歌師などとの関係が明らかになりつつある。今年度は、これらに記録された人物の特定、関係を持った理由などを探求し、江戸初期の上級武家の文芸のありようを総合的に把握することを目指す。 他の大名に関してはそれぞれの詠歌類、林家については羅山らの詩集や『国史館日録』などと照らし合わせたい。 また、かれらは参勤交代での旅で、和歌・紀行を書き残しているが、この調査も大名の文芸を考える上で重要で、私家集や『嗣封録』に残された資料などによって、これを明らかにしたい。 さらに、六代、政邦についてはすでに調査、翻刻した『榊葉和歌集』の他に、生涯の詠歌を含むらしい『千流流一滴集』と題された家集が残されている。大部であるが、この書を調査、翻刻し、『榊葉和歌集』との関係を明らかにしつつ、これまであまり和歌史上で、重視されてこなかった政邦の歌業を明らかにしたい。政邦は『おくの細道』当時の村上藩主であったことも文学史上重要で、芭蕉と関わりを持った藩士の調査も重要なことと考えている。 以上のことを成し、その成果として、『千流流一滴集』などの翻刻書の公刊、また、榊原家三代を軸とした近世大名の文芸のありようを本研究分担者、各自の専門性に合わせた研究成果をまとめ、公刊したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究成果として、忠次、政房、政邦の私家集を『榊原家三代私家集』として刊行したが、そのページ数が当初不明であり、また、原稿にするデータをPDF化して印刷会社に提供することによって、当初の予定より安価に済ますことができたために、予算と余す結果となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
これまで、成果として刊行した『浄晃院様御詠草』『榊原家三代私家集』を関係者などに贈呈した結果、またその予定を鑑みて、部数が不足してきた。さらに、再考すると翻字の誤りも見つかった。これらのことから、二書の改訂版を作ることを計画している。また、今年度は『千流一滴集』『嗣封録』の翻刻、さらに研究論文集の刊行を予定している。これらの刊行に使用したいと考えている。
|