研究課題/領域番号 |
25284053
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
今泉 容子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40151667)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ロマン主義 / ウィリアム・ブレイク / 複合芸術 / 手 / ジェンダー / 彩飾詩 / 女 / セクシュアリティ |
研究概要 |
本研究が対象とするのは、イギリス・ロマン主義期の詩人・画家・彫版画師ウィリアム・ブレイク(William Blake)の「彩飾詩」とよばれる複合芸術の全作品である。研究目的は、彼の作品に頻出し、擬人化までされた「手」の意味を、18世紀の医学的ディスコースに関連づけながら、また同時代のゴシック文学における「手」の描写と比較しながら、解明することである。 初年度である平成25年度には、ブレイクがこだわった「手」の全体像を明らかにすべく、彼の彩飾詩の全作品の解析に重点を置いた。従来のブレイク研究が考察対象としたのは、「男の手」だけであった。もちろん「男の手」が重要であることは、疑う余地がない。しかし、その「男の手」とはまったく異なる「女の手」が、じつはブレイクの初期の彩飾詩のなかにすでに潜んでいることを、国内外のブレイク研究がすっかり見落としていることに常に疑問をもっていたため、まず「女の手」の存在を明らかにするところから、初年度の研究は出発した。そして、その「女の手」が後期の作品になるにつれて力を増していき、やがて「男の手」を凌ぐ存在になることを実証したのである。言い換えれば、ブレイク作品における「手」に織り込まれた「性差」の意味やメッセージを解明したことが、初年度の研究実績だったのである。 「女の手」を無視したのでは、ブレイク複合芸術における「手」は理解できない。初年度の本研究が解明した「女の手」は、男を誘惑したり男に抵抗したりするセクシュアルな手である。「女の手」の先には、つねに男がいることを、ブレイクの「詩」と「絵」へのアプローチを同時に実践することによって、示すことができたと思う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標としていたブレイク複合芸術作品における「女の手」の存在を明らかにすることができ、また「男の手」との意味や役割の大きな違いも明らかにできたため、目的が十分に達成されていると判断した。 予想外の発見や、思いがけない展開がなかったため、「当初の計画以上に進展している」とは判定しなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後(すなわち2年度目以降)は18世紀「医学関連」と「コシック文学/エロティック文学」の一次資料を入手することから、研究をはじめる計画である。 ブレイクと医学の結びつきは、ブレイクが Spurzhaim のObservations on Insanity を所有し、欄外に書き込みを残したことや、出版者ジョゼフ・ジョンソンに雇われて、ジョン・ブラウン著『医学入門』の英語訳本(1788年)の口絵の彫版を行ったことだけに限定されはしない。ブレイクは当時の医学の知識を、ジョンソン経由で得ていた。そこで、当時の「手」をはじめ体の部位をテーマとする「解剖学」関連復刻版図書を読解し、「手」に関する医学的ディスコースを考察しようと考えている。そうした医学的ディスコースに照らし合わせながら、ブレイクの「手」の意味を明らかにしたいのである。 同様に、当時のゴシック文学(小説・詩)やエロティック文学に登場する恐怖の手やセクシュアルな手をゴシック文学/エロティック文学の一次資料に検出し、それらの作品における「手」をめぐるジェンダー的ディスコースを明らかにしようと計画している。そして、ブレイクのセクシュアルな「女の手」の意味との比較考察を行いたい。 このように2年度目以降に明らかにされる18世紀の医学的、ジェンダー的ディスコースに照らし合わせながら、ブレイクの彩飾詩における「手」の特異性を明らかにする計画である。最後に、3年間の研究の成果を国際会議で発表し、英語論文として公表したいと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度末近く(3月)に実施した出張旅費の支払いが、3月31日現在完了していないため、残高があるかのように見えるが、その金額は出張旅費として支出が確定している。 すでに出張旅費として支出が確定しているため、次年度(平成26年度)の使用計画はない。
|