研究課題/領域番号 |
25284086
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
近藤 泰弘 青山学院大学, 文学部, 教授 (20126064)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | N-gram / 平安時代 / コーパス / 構築史 / 言語リソース / 和文 |
研究実績の概要 |
平安時代における言語リソースの概念についての研究を行っているが、本年は大きな進展があった。研究の主体の『古今集』の言語リソース研究は従来のデータベース化をさらに進め、メタファーのデータベースの作成に向けて作業を進行中である。研究情報の海外発信については、専用のウェブサイトを開設した。http://japanese.gr.jpというURLのもとにデータ・ソフトウェアツール・研究の英訳などを公開した。
また、日本語歴史コーパスについての研究については、研究代表者が筆頭編者となった著書『コーパスと日本語史研究』を出版した他、論文数通を公刊した。また、連携研究者の著書としては『王朝和歌研究の方法』を公刊した。いずれも本研究の成果を充分に取り込んだものである。日本語歴史コーパスは、最初の段階に、研究代表者がプロジェクトリーダーとして研究を開始したものであるが、その後、国立国語研究所のプロジェクトとして開発が進行し、さらに拡充されてきている。現在の所、日本語の形態素解析済みの古典語コーパスとして唯一のものである。現在のところ、日本語歴史コーパスを検索する方法は、オンラインコンコーダンサの「中納言」による他はないが、本研究では、それ以外にN-gramを用いた研究主要についても述べている。
また、今年度は、Python言語によるコーパスのテキスト処理についても知見を深めることができた。従来はエクセルによる処理を主におこなっていたが、はるかに高速に柔軟な処理ができることが明らかになった。次年度以降、その方法について論文を公刊していく予定である。また、言語リソース研究をする際には、コーパスにおける範列的な秩序と、統語的な秩序とのかみ合わせの様子を記述することが重要である。この点は本年度の研究において特に重要視したところであり、先に記した『コーパスと日本語史研究』などにおいて詳細に触れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第1の大きな理由はここまでの研究を著書として刊行できた点である。『コーパスと日本語史研究』では、本研究の重要な目標であるコーパスによる古典語研究の方法について、多くの論考を集約して、研究の方向性を示すことができた。また、研究代表者もその中で、中心的な論考を発表し、コーパスによる日本語史研究とはどういうものであるかを記述した。
また、連携研究者は『王朝和歌研究の方法』において、王朝和歌文学を従来的な表現研究・伝記研究・書誌研究の枠組みだけでなく、言語学・歴史学・社会学といった人文科学の隣接分野、理系の情報処理研究との連携において、構築主義的な手法による実証的な研究を展開した。本研究における言語リソース研究の研究の一段階を示したものである。
また、当初の本研究の目的である研究情報の海外発信についても、ウェブサイトを作成し、先の著作の一部を英訳して、公開した。この公開は研究のオープンアクセスの流れにあったものであり、多くのアクセスを得ている。このように研究の内容や、またそのもとになったデータベースを公開することは、今後の研究手法として重要になってくると思われるが、本研究はそれを先端的な方法で実現した。以上3つの理由により、本年度の研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主たる目的は、平安時代において、従来知られていなかった新しい概念である「言語リソース」がどのように構築されているかを実証する点にある。「言語リソース」は、ある言語使用の集団の中において、特定のアイデンティティと結びついた言語要素の集合体を言う。たとえば。「女性語」一般は女というアイデンティティと結びついた一種のリソースである。平安時代における「言語リソース」については、まず本研究においては、『古今和歌集』のリソースとしてのあり方を中心にデータベースを作成しているが、その作業を本年も継続する。 次に、平安時代の言語リソースのひとつの型として、『古今和歌六帖』における言語の特異性の問題が浮上してきた。もともと、『古今和歌六帖』は特異な語を多く含む作品として知られているが、本研究では、『古今和歌六帖』のコーパスからKWICコンコーダンスを作成し、さらに統計処理によって頻度順のことなり単語リストを作成した。これを分析することによって、『古今和歌六帖』の依拠した「言語リソース」として「万葉語」をあげることができることを実証できた。本年度は、この研究やデータの公開ができるようにしていきたい。さらに本年度は、当初から共同研究を行っているオクスフォード大学によるコーパスの分析も行い、万葉語のあり方についても知見を深める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際共同研究者のオクスフォード大学のビャーケ・フレレスビッグ教授が本年度は日本に滞在されていたため、日本において共同研究を行うことができたたため、出張の必要がなかったので、出張費が不要であった。また、本年度は人件費なしで主にコンピュータによる作業を行った。以上により、旅費と人件費が不要であった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は旅費と人件費を予定通り使う予定である。旅費は国内の史料調査と、海外における研究野打合せ、また人件費はデータ整理のアルバイトを依頼する予定である。
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