本研究の研究代表者は、平安時代言語の研究を行う中で、平安時代文学作品の深い理解や、言語構造の 解析のためには、従来考えられている以上に、そのコノテーションの分析が必要であると考えてきた。「桜」と言えば「なつかし」、「笹」と言えば「短夜」、さらに「柳」と言えば「垂る」など、当時の 言語のコノテーションが明らかになることによって、文学作品の理解も格段に深くなる。また、研究代表者や連携研究者が「言語リソース」と呼んでいる、『古今集』などの当代言語の文学的語彙の規範意識 も、このコノテーションが背景にあるはずである。これらのコノテーションは、「言語リソース」と して、その後も長く継承され、その一部は、現代語にも及んでいる。現代の歌謡曲でも、平安時代 に「懐かしいものだった」桜は、卒業式にちなむものとしてよくイメージされる(「桜」のコノテー ションとして「卒業式」がある)。平安時代語のコノテーションを探ることは、単にその時代の言語 についての研究に有用なだけでなく、その後の日本文化全体の背景を探る研究ともなるはずである。 本研究においては、N-gramを用いたコーパス処理の技法の研究、様々な索引プログラムの開発によって、コノテーションを中心に、平安時代語の言語リソースの状況についてかなり明らかになってきた。最終年度には、『源氏物語』の用例辞典およびそこに見られる言語リソース要素についての一覧を作成し、研究のまとめとすることができた。『源氏物語』に用いられた、それぞれの単語における「連想語」の一覧は、平安時代語の言語リソースを研究する際の必須の資料になると思われる。
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