研究課題/領域番号 |
25284110
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東海学園大学 |
研究代表者 |
青谷 法子 東海学園大学, 教育学部, 教授 (00278409)
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研究分担者 |
杉野 直樹 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (30235890)
FRASER Simon 広島大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10403510)
荘島 宏二郎 独立行政法人大学入試センター, その他部局等, 准教授 (50360706)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非対称多次元尺度法 / 英語教育 / 心的語彙 |
研究概要 |
言語使用者の心的辞書がネットワーク構造を持つことは理論的に示されてきているが、個々人の心的辞書における語彙項目間の関係性を実証的データに基づいて視覚提示する研究は少ない。本研究では名詞・形容詞の組み合わせにおける方向性に着目し、基本的な形容詞が持つ名詞との共起特性を非対称フォン・ミーゼス尺度法(AMISESCAL)を用いて二次元座標上に提示することを試みた。実験では、人を表す名詞、無生物で具体物を表す名詞、抽象概念を表す名詞6語と、叙述用法でのみ用いられる形容詞、限定用法でのみ用いられる形容詞、両用法で用いられる形容詞9語を対象とした。名詞6語x形容詞9語x語順2(名詞先行・形容詞先行)の108文の課題文を準備し、それぞれの容認可能性を日本人英語学習者45名と英語母語話者5名が5段階で判断した。 対象となる名詞・形容詞の組み合わせのうち、いずれかの語順だけが容認される組み合わせは「非対称的」と考えられる。AMISESCALによる分析では、非対称的な語彙項目は離れて布置され、その方向性(共起可能な語順の容認度)はフォン・ミーゼス分布(vMd)の方向と大きさによって表現される。 分析の結果、英語母語話者の容認可能性判断に基づく形容詞の布置と個々の対象語のvMdは規範文法に基づいて説明できるものとなった。一方、日本人英語学習者の容認可能性判断に関しては、全ての形容詞が名詞群から離れた位置に布置された上、語順の容認度を示すvMdがほとんど観察されず、形容詞の用法による区別がなされていないことがうかがわれた。さらに、調査参加者の反応を個別に分析した場合、大幅な個人差が認められた。 本研究はAMISESCALを語彙表象の分析に援用した初めての試みであったが、この分析方法を採ることにより、言語使用者の群間に見られる特徴や個人差を浮き彫りにできる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、心的辞書のネットワーク構造を可視化する第1段階として、日本人英語学習者にとって高頻度かつ高頻度の形容詞・名詞の方向性に着目し、基本的な形容詞が持つ名詞との共起特性を非対称フォン・ミーゼス尺度法(AMISESCAL)を用いて二次元座標上に提示することを試み、一定の知見を得ることに成功した。 しかし動詞について、特定の項構造構文と共起する確率に基づく分布の分析については十分に達成されなかった。また、コーパスに基づく遷移確率データの抽出作業もやや遅れている。 また、研究協力者であるCardiff 大学 Paul Meara 教授から得られた助言をAMISESCAL のアウトプットを活用した語彙ネットワーク構造の可視化に反映させるまでには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
形容詞の語義の比喩的拡張を実証的に調査するテスト項目はこれまでの先行研究によりほぼ準備ができている。平成26年度は、まず形容詞の語義の拡張に焦点をあて、異なる学習段階にいる日本人学習者を対象に調査を実施し、得られたデータを元に、前年度に確立した方法により形容詞ネットワークを可視化を試みる。 一方で、動詞の多義性習得、および項構造構文との対応習得を調査するテスト項目、名詞の意味的ネットワーク構造を調査するテスト項目については開発途上であるため、平成26年度前半に試行した上で、平成26年度後半に調査を実施する。 調査課題は、多様な実施状況に対応し、また多角的に調査参加者の語彙知識を測定するために、印刷媒体・スタンドアロンのノートPC・ウェブ上のオンライン・テストといった複数の媒体を併用して実施する。また、心的辞書の発達を長期的に追跡することを目的に、日本人英語学習者を対象に定期的に課題に取り組むことを求め、各課題実施時点で、形容詞・名詞・動詞それぞれのネットワークをどの程度習得できているかを直感的に把握できる視覚的フィードバックを提示し、その効果について面談を通して確認する。 並行して、母語話者データに基づいてGephi によるネットワーク構造の可視化を既に実現しているCardiff 大学 Paul Meara 教授の参画を得て、AMISESCAL のアウトプットを活用した母語話者のネットワーク構造の可視化にも取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由として、①OMR等のデータ処理機材の購入を来年度に延期したこと、②研究協力者である古賀友也氏の国際大会(Vocab@Vic)への参加がスケジュールの都合上、取り止めになったこと、の2点が挙げられる。 ①に関しては、来年度実施予定の調査手法に変更の可能性が生じたため、機材購入は来年度の方が望ましいという判断に基づいた計画変更である。 前年度購入を延期したデータ処理機材に関しては、次年度以降に予定している、複数の媒体を利用した研究調査から得られるデータの処理に最も適した機種を選定し、購入する予定である。 その他は主に、研究打合せ会議費用、研究成果発表費用およびCardiff大学Meara教授の招聘費用として使用する予定である。
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