研究実績の概要 |
日本人英語学習者による語彙学習、特にネットワーク構造の可視化による語彙知識の構造化支援を目的とした本課題研究の最終年度である平成28年度は次の2つの観点から研究を進めた。 ①語彙知識のネットワーク構造面での拡張・深化を促進する要因として学習方略との関連性を探るため、語の連合関係を対象とし、関係の非対称性に注目しながら類似性の評価がどのように行われるのかについて、「非対称フォン・ミーゼス尺度法」AMISESCALを用いてそのネットワーク構造を可視化し、心理言語学的見地からの分析を行った。探索的因子分析から導き出された学習方略の3つの下位尺度のうち、熟考方略の使用頻度が語彙ネットワーク形成に影響を及ぼす因子であるという仮説が得られた。 ②リーディング教材に内在する語彙の構造的関係を描出するために、アソシエーション分析とネットワーク分析を併用し、ネットワーク構造として可視化を試みた。まず、物語文と説明文からそれぞれ約30,000語のマイクロ・コーパスを構築し、アソシエーション・ルールの検出とネットワーク構造の視覚化を行った。その結果、物語文からは比較的少数の語によって構成され、相互に独立したクラスタから構成されるネットワーク構造が得られるのに対し、説明文からはより多くの語をメンバーとするクラスタが相互に結びついたネットワーク構造が得られることが示された。次に、異なる難易度の多読教材から構築したマイクロ・コーパス(MLC; 約70,000語)と、同じレベルにある複数の多読教材のマイクロ・コーパス(SLC; 約70,000語)をデータとして、それぞれに内在するネットワーク構造の特徴を比較した。いずれのコーパスから得られたネットワーク構造も、相互に独立したクラスタで構成されていたが、SLCから得られたネットワーク構造の方がより多くの語によって個々のクラスタが構成されることが示された。
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