研究課題/領域番号 |
25284132
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
高松 洋一 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (90376822)
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研究分担者 |
近藤 信彰 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (90274993)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イスラーム史 / 簿記術 / 史料研究 / 国際研究者交流 / 中東 |
研究概要 |
定例研究会:東洋文庫にて6回の研究会を行なった。第1回研究会において、前年度までの文科省委託事業公募研究で訳注を公開・出版した『簿記術に関するファラキーヤの論説』に続き、どの簿記術指南書を講読するべきか比較検討した結果、サファヴィー朝シャー・タフマースプ時代に著されたケルマーニーの『簿記術論説』を取り上げることに決定した。簿記の具体的な記号・様式の用法を説明した第7章から講読を開始し、10章までを読み終えた。なおこの文献は刊本がなく、これまでにイランのマルアシー図書館、マジュレス図書館(2写本)、アースターネ・ゴッズ図書館所蔵の主要写本の収集に成功し、これらを比較検討しつつ、仮校訂テキストと日本語訳を作成した。 国際ワークショップ:オックスフォード大学のエドモンド・ハーツィック氏を招聘し、「Armenian and Persian Bookkeeping Systems: A Comparison」と題する国際ワークショップを2014年3月23日に東京外国語大学本郷サテライトで開催した。イラン式簿記術と近世アルメニア人の簿記術との比較を目的に、研究協力者の渡部良子氏とハーツィック氏が報告を行なった。渡部報告は、『簿記術に関するファラキーヤの論説』からケルマーニーの『簿記術論説』に至るこれまでのプロジェクトの成果に基づくもので、研究会の国際的意義を明らかにした。ハーツィック報告においては、アルメニアの簿記術のさまざまなテクニックが具体的に解説され、複式簿記を採用している独自性とペルシア語から多くの術語を借用している同時代性が明らかとなった。 海外調査派遣:研究代表者の高松が6月にトルコのイスタンブルで開催されたルカ・パチョーリ会計史国際大会に参加し、出版物交換、意見交換を行なった。 8月にドイツのマールブルク大学で開催されたイランのスィヤークのセミナーに研究協力者の阿部尚史氏を派遣した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、定例の研究会では、ひき続きモンゴル時代のイランで著された簿記術指南書『至福の書』、『至福の法』を比較対照しつつ講読する予定であったが、簿記術の発展と同時代のオスマン朝との比較の観点から、未公刊のサファヴィー朝期のケルマーニー著『簿記術論説』の講読に変更した。これによりイラン式簿記術の通時的展開、共時的な広がりに関し、当初考えられていたよりも深い考察を得ることができた。主要写本を比較検討しつつ、近日中に仮校訂テキストと日本語訳をウェブ・サイトに公開する予定である。 また国際ワークショップを通じ、イランのジョルファーで国際商業に活躍したアルメニア商人の専門家ハーツィック氏から同時代のアルメニア語簿記術に関する多くの知見を得ることができた。従来、イラン式簿記術の射程は、イランのほか東はインド亜大陸、西はオスマン朝支配下のアナトリア、アラブ地域、バルカンのムスリムに限られていたが、ハーツィック氏により同時代のアルメニア人商人が、中世イタリア起源の複式簿記術を利用しながらも、帳簿、計算、合計というような基礎的な術語をペルシア語から借用していたことが紹介され、イラン式簿記術の影響の広がりがいっそう認識されることとなった。またこのワークショップはイスラーム史研究者だけでなく、国内の会計史の専門家の参加も複数見られ、新たな学術交流の契機を生み出した。 ルカ・パチョーリ会計史国際大会に研究代表者が参加した際に、海外の会計史研究者、会計学者との交流を初めてもったが、同時期にトルコで出版された『簿記術に関するファラキーヤの論説』の土英訳と、我々の訳注書をの交換を行なったところ、学術的水準はこちらの方がはるかに高く、研究の方向性に自信をもつことができた。 またマールブルク大学のスィヤーク・セミナーにおいても、他国の参加者のレベルと比較して我々の帳簿読解能力、研究水準が高いことが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画以上に進展していると言えるので、研究の推進方策はこのまま維持していくこととする。 まず、昨年度と同様に東洋文庫における定例研究会を継続し、ギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの『簿記術論説』の講読を進める。今年度は抹消の記号である取消線(tarqin)について扱う第11章からはじめ、マルアシー図書館、マジュレス図書館(2写本)、アースターネ・ゴッズ図書館所蔵の諸写本を比較しつつ、仮校訂テキストと日本語訳を近日中にウェブ・サイトに公開する。 また昨年8月にドイツのマールブルク大学で開催されたイランのスィヤークのセミナーで講師を務めたシェイホル・ホキャマーイーを招聘の第一候補とし、今年度も国際ワークショップを東京で開催する。 簿記術指南書や実際に簿記術が用いられた帳簿の実例の収集のため、イラン、トルコ、エジプトの図書館や文書館での調査研究を行なう。 研究成果の海外発信を推進するために、今年8月にカナダのモントリオールで開催されるイラン学研究国際学会に研究メンバーを2名派遣し、英語による報告を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究協力者をエジプト・カイロへ派遣する予定であったが、出発直前に家族が危篤になったため、次年度に延期した。 昨年度に派遣予定だった研究協力者を、エジプト・カイロの調査に派遣する。
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