研究課題/領域番号 |
25284133
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮宅 潔 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (80333219)
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研究分担者 |
佐川 英治 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (00343286)
丸橋 充拓 島根大学, 法文学部, 教授 (10325029)
佐藤 達郎 関西学院大学, 文学部, 教授 (30340623)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中国古代 / 軍事史 / 民族 / 辺境支配 |
研究実績の概要 |
本年度も、前年度に引き続き、まずは共同研究者のあいだで共通認識を形成し、議論の下地を整える作業を進めた。その一方で、個々のメンバーが取り組む具体的なテーマについても、全員が予備的な発表を行う場を設け、次年度の国際シンポジウムにむけて準備を整えた。 まず共通認識を形成する作業としては、①テキストの読解と②講師を招いての講演会の開催とを今年度も行った。①の素材としたのは里耶秦簡で、この史料の会読を通じて、秦による新占領地支配や、駐屯軍の配置・管理について、具体的なイメージを獲得することに務めた。また②の作業として、唐代のソグド人研究に携わる第一線の研究者を講師に招き、講演会を開いた。講師は森部豊氏(関西大学)で、「8~10世紀の中国諸王朝におけるソグド武人の系譜と活動」との演題で、氏のこれまでの研究成果を、新知見を交えつつ紹介していただいた。講演後の討論では、ソグド人の民族性が如何にして維持されたのか、などについて活発な意見交換があった。 次に個々の研究テーマの予備発表の場として、12月と3月に研究会を開催した。この二回の研究会ですべての共同研究者が、自らが取り組む個別の課題について発表を行った。その問題意識は二つに大別できる。 一つは異民族の中国への侵入とそれに対する防衛とを扱った研究である。このテーマには「夷を以て夷を制す」、つまり異民族を活用した防衛策が密接不可分なものとして関わってくる。もう一つは異民族の管理、特に戸籍への登記をめぐる問題で、王朝が如何なる手法で新来者を支配の中に取り込み、管理しようとしたのかが焦点となる。今後もこの二点が個別研究の柱となることが確認された。 海外研究協力者のうち、金秉駿とエノ・ギーレは3月の研究会に参加し、予備発表を行った。また宮宅は7月にドイツ・ハイデルベルクで、10月には米国・シカゴで国際会議に参加し、研究成果の一端を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したとおり、今年度は①史料の会読、②講師を招いての講演会および討議、③次年度シンポジウムに向けての予備発表を行い、一定の成果を得た。 ①については、なおも『里耶秦簡〔壹〕』を通読するには至っていないものの、その輪郭はほぼ把握し、同時に秦代遷陵県(里耶秦簡の出土地)の概況もつかめてきた。そこで戸籍に登録されている戸口は高々4000人程度に過ぎないものの、一方で官吏の定員は100人を超え、合計で1000人程度の刑徒と兵士が配置されていた。山岳地帯の新占領地において、秦がどのように住民を把握し、管理しようとしたのかについて、貴重な手がかりが得られたといえる。ただし『里耶秦簡〔貳〕』の出版が予定より大幅に遅れており、この点がいささか懸念材料となっている。 ②の講演については、前年度の講演と合わせると、中国古代史・中世史双方の「民族」問題研究者から丁寧なレクチャーを受けたことになり、その成果には十分満足している。この講演および討議を経て、「民族性(エスニシティ)」の人為性が中国中世以降にも見いだせることや、いわゆる「中華意識」の形成時期とその過程について、メンバーの間で共通認識を形成することができた。今後はそれをふまえて、各人が具体的なテーマに取り組むことになる。 その第一歩として実施したのが③の予備発表である。本研究課題の共同・連携研究者のほとんどが制度史研究の専門家であり、民族に注目して研究を進めてきた者は多くない。そのため、個々の研究課題のなかに如何にして「民族」という切り口を取り込み、共通の視座を獲得できるかがプロジェクトの鍵となる部分でもあった。幸いに予備発表で各自の問題関心が明らかになり、「異民族を活用した防衛策」や「戸籍による異民族管理と徴兵」といったテーマにおいては、古代から中世にいたる歴史を追う共同作業も可能となってきた。今後さらに議論を深めたい。
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今後の研究の推進方策 |
計画どおり、来年度には国際シンポジウムを開きたい。このシンポジウムはソウル大学との共催で韓国において開催し、日本国内で討議を重ねてきたメンバーに加え、韓国の中国古代史研究者の参加も募り、広く意見を交換したい。 中国漢王朝の時代、朝鮮半島北部は漢の領域に取り込まれ、その郡県支配の下に置かれていた。従って中国王朝による軍事的侵略と統治の実像は、古代朝鮮史の研究者が強い関心を寄せる問題でもある。中国の古代王朝が行った、その辺境地帯での異民族支配の具体相を明らかにすることにより、韓国人研究者を中心にして行われている古朝鮮史研究に対して、一石を投じることができるだろう。そのうえで、多民族社会への統治のあり方やその背後にあるイデオロギーについて、議論を深めたい。会議終了後には予稿集を作成し、これを頒布することによって、より広い範囲の研究者から意見を徴し、同時に本プロジェクトに対する評価を得ることとしたい。 シンポジウムと平行して、従来どおり『里耶秦簡〔壹〕』を会読する作業も続けていく。同書の続刊が発行されたなら、現在は中断しているデータベース作成の作業を再開するとともに、『〔壹〕』の発行時に行ったような、専門家を集めての討論会も行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
出版が予定されていた『里耶秦簡〔貳〕』の発売が延期され、今年度内の購入ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
同書が発売され次第、購入する。
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