研究課題
基盤研究(B)
旧石器、動物化石と共伴する更新世人類化石の発掘を目指し、2013年7月27日から8月9日にかけ青森県尻労安部洞窟の発掘調査を実施した。その結果、洞窟奥部に堆積する更新世堆積層の上部より、絶滅動物であるヘラジカの頬歯3点ほか、これまでになく保存状態のよい大型哺乳動物の遺体群を発見することができた。国内の人類遺跡で初例となるヘラジカ遺体の発見は、極めて大きな意義をもつ。また、発掘期間中には当洞窟出土旧石器の石材産地を把握すべく、下北半島の主たる河川流域も踏査し、岩石標本の体系的な収集にも努めた。2012年に尻労安部洞窟の更新世堆積層から出土したクマ科の歯牙については、本年度、縄文期・現生のツキノワグマ標本およびアイヌ期・現生のヒグマ標本と歯冠計測値を比較した結果、今日本州に分布しないヒグマに由来すると判断するに至った。加えて当洞窟から採取した土壌サンプルを篩別、重鉱物を分析した結果、更新世堆積層の上部を中心に、約15,000年前に降灰した濁川テフラが多数含まれていることも明らかとなった。さらに、過年度出土動物化石のうち新たに5点の資料についてC14年代の測定も試みた。上記の研究成果に関しては、第79回日本考古学協会総会、日本動物考古学会第1回など都合4件の学会・研究会、さらに発掘期間中現地で開催した遺跡説明会において報告した。また、2012年度までの発掘調査の報告書についても執筆・編集を進め、来年度中に刊行し得る見通しも得た。なお、2011年尻労安部洞窟から出土したトラピーズについては、過年度の分析によりその石材がバイカル湖周辺に産するカショロンという岩石である可能性が指摘されていた。そこで、同岩石を素材とするザバイカル出土新石器2点をロシア科学アカデミーより借用し、走査電顕による検鏡とX線回折を試みた結果、尻労安部洞窟出土トラピーズと微細構造が酷似することも確認した。
3: やや遅れている
尻労安部洞窟における2002年度から2012年度までの調査成果を纏める報告書については、当初、昨年度中の刊行を予定していたが、過去10年間に発掘された膨大な動物遺体群の観察・分析に手間取り、各章の原稿を執筆し、編集作業に着手する段階で年度末を迎えてしまった。また、夏季に実施した尻労安部洞窟の発掘調査については、洞窟奥部の更新世堆積物を広範囲に掘削できるよう、当初予定していた以上に調査面積を広げた。これに伴い発掘および掘削土壌の水洗に要する人員も増員し、調査経費が嵩むところとなったため、初年度事業として予定していたウェブサイトの構築なども見送らざるをえなかった。
尻労安部洞窟の過年度調査報告書については、昨年度中に各章節の原稿の執筆があらかた終わり、編集作業も既に山場を迎えている。そこで、本年度はまずこの報告書の早期刊行に努める。また、夏期には昨年度に引き続き、同洞窟の発掘調査も継続する。幸にして昨年度の調査では洞窟奥部の更新世堆積層の上部からこれまでになく保存状態の良い動物化石群を得ることができた。よって、本年度以降は同地点を中心に発掘を進め、念願の人類化石の発見も目指す。もとより研究成果の公開・アウトリーチ活動にも昨年度同様、積極的に取り組んで行く。関連諸学会での発表と学術雑誌への原著論文の投稿に努めるとともに、尻労安部洞窟の発掘調査時には現地説明会も開催、昨年度着手できなかった「ウェブサイト」による情報発信にも進めたい。加えて、本年度以降は、計画調書に掲げた1「本州最北部における更新世から完新世の古環境復元」、2「本州最北部更新世類集団の狩猟活動と資源利用の解明」、3「本州最北部更新世人類集団の来歴の解明」という三つの課題を念頭に置き、適宜連携研究者諸氏の協力も仰ぎ、領域横断的な研究にも取り組む。特に尻労安部洞窟出土トラピーズについては、昨年度の分析も経てシベリア産のカショロンでに酷似する岩石が素材に用いられることが確認され、3の課題に関わる重要な資料となることから、引き続き領域横断的かつ多角的な研究を続けてゆく。その上で、最終年度に当たる次年度は、本研究プロジェクトの成果を知財として社会に還元すべく、公開シンポジウムも開催する。なお、同シンポジウムについては、当初都内での開催を予定していたが、知財を地域社会に還元する重要性も考慮し、諸条件が整えば、尻労安部洞窟にもほど近い青森県むつ市で開催することも検討したい。
今後の調査・研究を円滑に進める上で、昨年度は尻労安部洞窟の発掘調査に多くの人員を動員する必要が生じ、それに伴う旅費も申請時の予定額を大幅に超過するところとなった。当初、同超過分の支払いに65万円強の金額が不足すると指摘されたため、70万円を翌年度予算から前倒し請求することとしたが、その後所属機関の事務手続きに一部手違いがあったことが判明、実際の不足額が30万円余りであることが確認された。よって、前倒し請求した予算についてはほぼ同不足額の補填のみに使用し、残額を次年度に繰り越すこととした。本研究課題の根幹をなす尻労安部洞窟の発掘調査については、本年度、土壌の水洗・篩別に多くの人員を配し、目的となる更新世堆積物の掘削に本格的に取り組むことを予定しており、その実施に少なからぬ経費がかかることが予想される。よって、昨年度繰越金も、その大半は発掘調査に伴う旅費、宿泊費に当てることとなる。
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