研究課題
旧石器・動物化石と共伴する更新世人類化石の発見を目指し、昨年度に引き続き夏季(7月27日~8月9日)に青森県尻労安部洞窟の発掘調査を実施した。その結果、後期更新世の層準より保存状態の良好なヒグマ・ヘラジカの化石を発見。洞窟奥部の更新世層準を発掘し得る状況も整うに至り、次年度以降の調査に一層の期待がもてるところとなった。本科研プロジェクトに先立つ当洞窟の発掘成果を纏めた報告書も上梓した(『青森県下北郡東通村尻労安部洞窟Ⅰ-2001~2012年度発掘調査報告書-』六一書房, 2015)。A4版310頁にのぼる同報告書は、国内初となる旧石器と動物化石の明確な共伴例を詳述した書籍として反響を呼んでいる。過年度に出土したヒグマ・ヘラジカの歯牙については、マイクロCTで象牙質・セメント質に形成された成長輪の観察にも着手した。同観察が進み、死亡時季・年齢を特定できた暁には当洞窟を利用した旧石器時代人の狩猟活動をより詳細に論ずることが可能となる。昨年同様、学会等での成果発表も積極的に行った。予算の関係から昨年度は見送らざるを得なかったウェブサイトも開設。尻労安部洞窟の発掘成果も含め、本科研プロジェクトの情報発信に努めた。また、夏季発掘調査中に地元住民を対象とする成果報告会も開催し、アウトリーチ活動にも取り組んだ。さらに本研究プロジェクトの成果を社会へ還元すべく、最終年度に公開シンポジウムを開催する準備も進めた。その結果、幸いにしてむつ市、東通村双方の教育委員会から共催も取り付けることができ、日程を2015年11月7日に確定。会場も確保するに至った。
2: おおむね順調に進展している
尻労安部洞窟を利用した更新世人類集団の石材獲得活動を解明すべく計画した津軽半島域の岩石標本の採集作業は、天候不良に伴う河川の増水により、実施に危険が伴うことが予想されたため、見送らざるを得なかった。しかしながら、尻労安部洞窟の過年度発掘成果報告書の編集・刊行作業を終え、本科研プロジェクトの成果や関連情報を発信するウェブサイトも開設するに至り、前年度の遅れについては、概ね取り戻すことができた。
(1) 昨年度に引き続き夏季に尻労安部洞窟の発掘調査を実施する。(2) 今夏も昨夏見送った津軽半島域の岩石標本採集作業についても、本年度予備日程も組んだ上で確実に実施を図る。(3)「古環境」、「狩猟活動と動物資源利用」、「人類集団の来歴」につき、これまでに得られた調査・研究成果を照合し、本州最北部における更新世人類集団について領域横断的かつ総合的な理解を深め、その成果を11月7日に開催するシンポジウムで公開することにも努める。(4) 2013年度から2015年度までの尻労安部洞窟の発掘調査報告書についても、本科研プロジェクトの終了後速やかに刊行できるよう、執筆・編集作業を進める。
本研究プロジェクトに関する情報発信を目的に制作したウェブサイトの完成が3月中旬となり、同経費の会計処理が間に合わず、繰越し金が発生した。
昨年度繰越し金については、速やかに昨年度末に完成したウェブサイトの制作費の支払いに当てる。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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http://www.flet.keio.ac.jp/~sato/shitsukari/index.html
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