研究課題/領域番号 |
25284165
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
溝口 常俊 名古屋大学, 環境学研究科, 名誉教授 (50144100)
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研究分担者 |
村山 聡 香川大学, 教育学部, 教授 (60210069)
土屋 純 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (80345868)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 歴史災害史料 / 地震・津波 / 防災対策 / 地域環境史 |
研究実績の概要 |
今年度は、溝口はこれまでの研究成果を踏まえて、研究業績の学会発表にあるように、2015年7月にロンドンで開催された国際歴史地理学会、8月に中国済南で開催された世界歴史家大会、そして、さらに10月に高松で開催された第3回東アジア環境史学会において、および京都大学数理解析研究所で報告を行った。とりわけ、中国で開催された世界歴史家大会では、災害をめぐるセッションで過去帳からみとめられた日本の歴史災害を紹介した。また、名古屋市防災危機管理局との連携で、名古屋市での歴史災害地の分布を江戸時代(宝永、安政地震など)、明治~昭和戦前(濃尾地震など)、昭和戦後~平成(伊勢湾台風など)の3期に分けてA1サイズのポスターにして示し、市内の小・中学校、図書館、区役所などに配布した. 村山は溝口と同じ国際学会で成果を発表したうえで、ルートリッジから出版された家畜に関する論文で、近世日本の地域性を家畜保有との関連から明らかにした。死亡危機を克服する際に有益な家畜保有に注目し、近世ヨーロッパと比較して、その違いを指摘した。今後、死亡危機を考える際に、ヒトの死亡の変化だけではなく、保有財産の質の違いに注目して、災害を巡る死亡のあり方に関する地域性についての研究を環境史的な視点から考える意義をみいだした。 土屋は、東日本大震災の被災地の復興について話し合うシンポジウムで、被災地の復興についての調査結果を報告した。高齢化や人口減少が進んだ上、災害公営住宅が郊外に建てられているため、駅前の商店街の衰退が震災前より加速しているケースがあると説明し、今後、高台への移転が進むと高齢者などが移転先で「買い物弱者」となると指摘し、移動販売の充実といった暮らしの面での支援が必要だと訴えた。 なお、全国各地での過去帳探索、歴史災害記録の収集については、引き続き情報整理を行い、最終年度である次年度でも行うことにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「歴史資料から見た災害列島日本」を研究するに当たって、過去帳や日記の収集、およびそれらが存在する地域の全体像を見るための地誌類の収集は、着実に増やすことができたので、本科研プロジェクトはおおむね順調に進んでいるといえよう。それに加えて中間発表とはいえ、イギリス、中国、日本の3カ国での国際地理/歴史/環境学会で報告できたことは、今後の研究をさらに深めるためにもいい機会となった。 予期せぬ出来事として、2015年4月にネパールで大地震が発生し、その1年前に溝口と土屋がトレッキングしたランタン街道が壊滅的被害をうけた。われわれが調査した街道の通行人調査は被災前の記録として貴重な資料となろう。もう1つの災害として、同年5月に口永良部島での火山爆発があり、溝口と土屋が2003年に訪れた諸集落は大被害をうけた。当時作成した生活記録も貴重な資料となろう。15年12月に屋久島に出かけ口永良部島の小字図を収集するとともに屋久島で4カ寺の過去帳も閲覧できた。これら当初予定していなかったが、研究成果に加えたいと思う。 本研究で、重視しているのが、フィールドワークであり、溝口は2015年3月に東日本大震災の被災地を八戸から仙台まで三陸海岸沿いに5日間かけて移動し、被災の現場を見ながら聞き取りをおこなった。5年たった現場はいずこもかさ上げ工事と、防潮堤の工事が進んでいたが、住民はほとんどもどってきていなかった。これらの見聞を日記形式でまとめたので、これも研究成果に加えることにしたい。 この間、村山は、研究実績の概要と今後の研究の推進方策で記したように、ヨーロッパを対象にした災害資料調査と日本での天草での近世日記分析をおこなった。また村山と溝口は今後の東南海地震で30mを越す日本最大の津波襲撃が予想される高知県黒潮町にでかけ、高齢者から近くの山に避難する立派な階段を登ることは大変だという声を聞いた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年においては、本研究の成果から、防災に役立ちそうな事項を抜き出してまとめ上げることに重点を置く。過去帳研究に関しては、訪問した数十カ寺の過去帳での死者数の現れ方の違いを年月日別、性別、年齢別に比較検討する。そして、それぞれの寺院の立地している地域の地震・津波、火事、洪水などの自然災害履歴、飢饉、伝染病被害歴をまとめ、過去帳での死者数との関係性を検討する。死者が多数発生した原因がわかれば、将来に向けて注意を喚起できる。 日記に関しては、災害に遭遇した時の住民の行動が記されている個所に注目する。東北では八戸の『鮫御役所日記』で飢え人救済状況をみる。中部地方では、名古屋の『鸚鵡籠中記』で宝永の大地震他さまざまな自然災害の被害状況を明らかにする。九州では、天草高浜の上田家文書である上田日記をとりあげ、災害に遭遇した住民の対応を整理する。これらに加えて、時代は明治以降になるが、山梨の養蚕農家の「源吉日記」、北海道礼文島の漁師の「小軽米栄日記」、種子島の竹細工師「大崎蘇市日記」を読み、災害事項を拾い出す。 過去帳、日記に加えて、被災地域の環境史をとらえるために各地区に残されている近世地誌の整理分析を行う。東北地方では『安永風土記』、中部地方では『尾張徇行記』、九州では『大村郷村記』をとりあげる。 また、歴史資料研究を防災に活かすために、土屋は東日本大震災(2011.3.11)から復興過程にある三陸地域で流通の観点ら災害弱者をいかに救済するかという提言をおこなう。溝口は、名古屋での過去400年の歴史災害記録を収集し地図化する。村山は天草で疱瘡に加えて火災、風水害を精査し、近世ヨーロッパとの比較の上で保有財産の質の違いに注目して防災に活かす。 本年が科研の最終年度であるので、内外の学会、研究会で成果を発表するとともに、歴史資料からみた災害列島日本」というタイトルでの報告書の作成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ入力のために予定していた学部生を雇うことが厳しくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
データ入力の人材を早期確保し、そのために謝金を使う。 国内外での調査、研究会の旅費、専門的知識享受のための謝金を予定している。絵図、地図を含む資料代にも使用する。
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