研究課題/領域番号 |
25284165
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
溝口 常俊 名古屋大学, 環境学研究科, 名誉教授 (50144100)
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研究分担者 |
村山 聡 香川大学, 教育学部, 教授 (60210069)
土屋 純 宮城学院女子大学, 現代ビジネス学部, 教授 (80345868)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 寺院資料 / 地誌 / 災害 / 地域環境史 |
研究実績の概要 |
今年度の研究代表者溝口の研究成果のまとめとして、平成29年3月25日に神戸大学で開催された歴史人口学会において「寺院資料から見た災害列島日本」と題した報告を行った。そこでは,死因を,全国的,地域的,局地的というスケール別にまとめなおして、下のような結果を得た。1.全国的に死者数が多かった死因:1)飢饉:①天明,②天保,2)疫病:①文久2年のコレラ・麻疹,②大正7年のスペイン風邪,3)戦争:①第2次世界大戦,2.地域的に死者が多かった死因:1)地震:①安政元年地震,②濃尾地震,③関東大震災,④伊勢湾台風,そして,3.局地的な死因:1).海難事故:①因島,②野母,2).ダム決壊:①鹿角市,3).公害:①浜名湖アサリ水銀,②伊勢の工場排水。 この他に、名古屋市の歴史災害記録の収集を行うとともに、市民向けに古地図を使った防災に関する講演を行った。 分担者の村山は、日本では高知県安芸郡を訪れ、集落立地や寺院の配置調査を行い、河川流域、山間部の開発など自然災害の影響はきめ細かい地域分析が必要なことを指摘した。またヨーロッパの南ボヘミアの資料調査から、強力な領主支配がきめ細かな災害対策をしていたことに注目し、災害列島日本の実態を明らかにするには、支配構造や市場構造さらに相互扶助を考える必要があることを示した。 もう一人の分担者の土屋は、東日本大震災後の東北地方における流通システムの再編と買い物弱者問題を調査し、陸前高田市や南相馬市では、震災後に人口減少が激しく消費市場が縮小するだけでなく、仮設住宅での一時的な移住が重なって消費市場の地理的な態様も変化していることを指摘し、年々チェーンストアの展開により地域商業の縮小化が進んでいること、仮設住宅に居住している高齢者を中心として買い物弱者に陥っていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溝口の寺院資料収集、村山のヨーロッパでの資料収集、土屋の東日本大震災からの復興状況については順調に調査が進んでおり、それぞれが成果の一部を内外の学会で報告し、論文発表も行ってきた。溝口は、当初の予定数よりは少ないものの、平成29年度までに、実際に寺院を訪問して過去帳を閲覧させていただいたのが60カ寺にのぼった。1寺院平均3000人もの死者数なので、データベース化するのに時間がかかり、現時点で集計できたのは20カ寺分に過ぎない。そこでは,死者の①年月日,②性別,③年齢(江戸時代では,大人か子供の区別),④出身地について記録した。いくつかの寺院でご住職から檀家で起こった災害について貴重な話を聞き取ることができた。 村山は南ボヘミアの文書館で1702年の冷夏と豪雨被害に関して、各村落・農業単位で、平均的な産出量に加えて、その時の作物の被害量が分かる資料を見つけた。日本では広島県や岡山県で村落立地の実地調査を行い、飢饉時の災害と死亡率について考察した。また、ルートリッジから出版された論文で、近世日本の地域性を家畜保有殿関連から明らかにした。 土屋は地元の東北との比較のため、沖縄の生活基盤や文化景観の研究、インドの中核地域でメガリージョンとして成長しているデリー首都圏のショッピングモールの発展や郊外市場の調査、さらにはバングラデシュにおける農村生活とその基盤である定期市などの流通システムの動向を調査した。 ただ、「歴史資料からみた災害列島日本」という本テーマ自体が奥深く、調査をすればするほど新たな課題が見つかり、それらに取り組まねばならないとなると、一層の努力が必要となることがわかった。そういった意味で、現在までの進捗状況は「当初の計画以上に進展している」とは言えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本科研での研究期間を1年間延長していただいたので、災害に関する寺院資料収集のために、さらに訪問寺院を増やすとともに、収集した膨大な資料のデータベース化、地図化をおこなう。寺院の死者記録では、共通して自然災害、飢饉、伝染病、戦争の犠牲者が多いが、各寺院地域独自の公害等の犠牲者も浮かび上がってきた。これらの比較を精緻にすることにも力を入れる。 また、地誌、日記、村絵図、地方史などの参考資料の収集、分析もおこなう。尾張地区に限っても『寛文村々覚書』『尾張徇行記』という近世地誌、『鸚鵡籠中記』という元禄時代の日記があり、そこから災害記録を拾い出す作業をしたが、同じ方法で全国に視野を広げ分析を行う。村絵図からは土地利用と集落の位置を把握し、地名情報も加味して防災の知恵を読み取る。地方史からの災害履歴はローカルな寺院資料での死者数の多い年月の死因を明らかにするために活用する。これらの資料調査に加えてフィールドワークを重視して、現地での聞き取りを増やしていきたい。 新たな課題として、歴史資料から災害を読み取るだけでなく、今後の防災に対して何らかの提言を行わねばならないという使命感が生まれた。そのために、過去何度も訪れている東日本大震災の被災地でのさらなる資料発掘と聞き取りを増やし、地震・津波対策を考える。東北地方では明治29年、昭和8年、35年と大津波被害が起き、そのつど高台避難が叫ばれ、堤防が築造されてきたが、それでもこの度平成23年の大津波で2万人弱の犠牲者を出してしまった。従来とは違った発想でもって防災対策をすべきと思った。そのために、以前の科研B「洪水常襲地における21世紀型水環境社会の構築」(平成21~24年度)で研究対象地としたバングラデシュを再訪し、洪水対策の知恵を学ぶとともに、東北でもバングラでも災害弱者を如何に救うかという点について何か提言できればと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
歴史災害記録を全国の寺院を訪問し収集に努めてきたが、各寺院での聞き取りと、資料整理にかなりの時間がかかり、その補充を来年度に行うことが主たる理由である。災害に関する寺院資料収集のために、さらに1年訪問寺院を増やし、全国比較を精緻にするための旅費が必要なこと。収集した資料が膨大なためそのデータベース化、およびGISを活用しての分布図作成に補助員を雇い人件費も必要である。また地誌、日記、地方史などの参考資料のコピー費や成果を発表するための報告書の作成、文具などにかかる費用をその他として計上した。
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次年度使用額の使用計画 |
寺院の死者記録では、共通して自然災害、飢饉、伝染病、戦争の犠牲者が多いが、各寺院地域独自の公害等の犠牲者も浮かび上がってきた。これらの比較を精緻にすることにも力を入れる。新規訪問寺院として、南四国と愛知県のゼロメートル地帯を予定している。フィールドワークを重視し、地震・津波被災地として岩手県・宮城県の三陸海岸を再訪して、復興状況をみて、今後の防災対策を考える。また洪水対策の知恵を学ぶため、洪水常習地としてのバングラデシュ行を予定している。
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