研究課題/領域番号 |
25285018
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野田 進 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (90144419)
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研究分担者 |
中窪 裕也 一橋大学, その他の研究科, 教授 (90134436)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 労働契約 / 合意外規範 / 契約外規範 / ネクサス / 企業 / 権利義務の創出 / 合意の原則 / 比較研究 |
研究実績の概要 |
日本における労働契約論は、ナイーブな合意論(労契法にいう「合意の原則」に代表される)のもとで、それを補強するメカニズム(手続、公的諸制度)が確保されず、そのために本来の契約規範としての強制力が軽視されるという事態に陥っている。本研究は、かかる問題意識のもとで、労働契約に組み込まれるべき、「合意外規範」の理論体系を模索するものである。 本研究の2年目にあたる平成26年度には、日本の労働契約論におけるこれらの理論的脆弱性にかんがみ、その課題の克服という観点から,日本の労働契約論の返上分できを行った。その研究成果は、『特集・労働規制の緩和と労働契約論の課題』法律時報87巻2号(2015年2月号)として公表し、同特集に本研究の代表者・分担者・協力者メンバーの著作による7本の論考を掲載した。 これと変更して、研究計画の主軸である、ヨーロッパ諸外国の「合意外規範」ないし「契約外規範」の比較法研究のための活動も進行させ、平成26年度は、主としてイギリス、フランス、アメリカ合衆国の調査を行った。(1)イギリスについては、労働契約法分野の代表的研究者である、Mark Freedland,Nicola Countouris,Simon Deakin各教授に、フランスでは、同じく、Gerard Couturier, Alain Supiot各教授および労働審判所の裁判官等の実務家に、またアメリカ合衆国では、連邦労働省の担当官、議員事務所の担当官等に、連邦法の立法動向などをヒヤリングし、討議した。これらについては、平成27年度において研究報告の公表を準備中である。 以上とともに、本研究の代表者以下7名の面倍が、合計3回にわたり合同研究会の会合を持ち、研究打ち合わせ等を実施して、計画の実施を確認する作業も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)比較法研究が、特にイギリス及ぶフランスにおいて、予想以上に順調に進展している。両国においては、この分野の両国における最高権威者であり、かつ世界的な最先端の議論をリードする研究者との間で、長時間にわたりインタビュー・討議をすることができ、極めて有益な示唆を得ることができた。これらの研究者と、問題意識を共有することができ、日本の実情について共感を持って議論することができたのは、予想以上の得がたい成果であった。 (2)研究成果の公表が、予想以上に順調に進展している。上記のように、本年の2月に、法律のよく知られた専門誌に、本研究の課題と問題意識を踏まえた論考を特集記事として掲載することができたのは、中間段階での成果公表としては極めて有益であった。また、各国調査を踏まえての比較法研究の論考についても、労働法の専門誌に公表を約束しており、その準備段階にある。この点でも、研究成果の公表は平成27年度にも引き続き順調に進展するものと思われる。 以上により、当初の予想以上に、研究が進展している次第であり、この順調な進展を維持し加速するすることが重要である。
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今後の研究の推進方策 |
研究年度の最終年度にあたる本年度は、次の研究を実施する。 (1)比較法研究をさらに進展させ充実を図る。特に、①ドイツにおいては、いわゆつ人格法的共同体理論をいちおう脱却したとされる現状において、合意論では説明できない契約法理について、これを補強するどのような法理が台頭しているか。②イタリアについては、営業譲渡等の企業変動やグループ企業の団体交渉義務について、どのように理論的対処しているか。③アメリカ合衆国では、共同使用者(joint-employer)と理解される企業について、どのような理論基盤が発達し、さらに不当労働行為の命令等でどのような展開があるかについて、各国で実地調査を行い、研究者や実務家等との間でヒヤリング・討議を行う予定である。(2)さらに、以上の調査については、逐次公表を重ねることとし、さしあたり、労働法専門誌・季刊労働法の2015年夏季号(同年6月発刊)以降、『連載特集・契約外労働関係の課題』(仮題)として、連載の形で公表していくことが約束されている。 これら(1)および(2)の成果を元に、本年度の後半の時期には、以上を理論化・規範化する議論を進めるとともに、各研究対象国の追調査と合同研究会を重ねて、一ついの理論体系を構築することにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
基金助成金については全研究期間(3年間)の中で計画的な使用を予定していたところ、 (1)26年度には研究協力者の中に独自の研究費を有する者が多くなり、その分について本研究費の利用の必要が減じたこと、(2)研究代表者が所属大学の副学長の要職に就き、本研究に従事する時間が限定されたこと、などの理由により、次年度使用額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、研究代表者は所属大学の副学長を期間満了で終了し、研究専念の時間が確保できることとなった。 これにより、引き続き、イギリス、フランスの調査とともに、ドイツ、イタリアへの実地調査も予定している。また、必要に応じて日本国内に外国人研究者を招へいしてシンポジウムを開催することも考えている。外国書籍、パーソナルコンピュータの購入も必須である。 なお、詳細な使用計画は、本科研費研究チームの研究会(本年4月26日)で検討し決定することにしている。以上により、次年度使用額の使用は問題なく実施可能である。
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