研究課題/領域番号 |
25285043
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
野上 和裕 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (90164673)
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研究分担者 |
細田 晴子 日本大学, 商学部, 准教授 (00465379)
横田 正顕 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30328992)
西脇 靖洋 上智大学, グローバル教育センター, 研究員 (40644977)
深澤 安博 茨城大学, 人文学部, 教授 (60136893)
伊藤 武 専修大学, 法学部, 教授 (70302784)
八十田 博人 共立女子大学, 国際学部, 准教授 (70444502)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ユーロ圏危機 / 南欧 / 民主主義の赤字 / 政党政治 / 緊縮政策 / 議会制の危機 |
研究実績の概要 |
個別研究として、論文研究会は6月20日首都大学東京秋葉原キャンパス、12月6日京都大学稲森財団記念館、3月30日首都大学東京秋葉原キャンパスの合計3回開催した。初回は研究方針の打ち合わせであったが、2回目は八十田博人氏「ユーロ危機後のイタリアの金融と財政ー何が変わった(変わらなかった)か?ー」、横田正顕氏「ユーロ危機とデモクラシーの質ースペイン・ポルトガルを中心に」の報告が行なわれた。また、第3回は、活字成果として論文集をまとめるべく、それぞれの執筆予定論文の要旨報告会とした。 代表者、分担者による個別論文の発表は、雑誌論文が9編、学会発表が3回に上った。 これらの個別研究の進展の結果、ユーロ危機に対する政治的対応についての南欧諸国間のバリエーションが明確化された。すなわち、ECBによる無制限の国債購入の宣言など、いわゆるドラギマジックにより金融危機・ユーロ危機が最悪の時期を脱した後、ドイツなど経済状況の良好の国においては新自由主義政策が実質的に緩和されているが、トロイカおよびEUレベルにおける「新自由主義の奇妙な不死」により、ユーロ危機の震源地たる南欧諸国に対して、さらに厳しい緊縮策が課せられている。EUレベルとのリンケージに関する、そのような地域的な特性にもかかわらず、イタリアにおいて議会制民主主義の機能不全が生じて非憲法的政権が続いているのに対して、スペイン、ポルトガルでは社会民主主義政権から保守政権へという従前の政権交代パターンの継続がみられた。スペインやポルトガルでは、緊縮政策に関して「これより他に道はないTINA」という言説によって推進される一方で、左右の対立が激化し、社会的合意形成も乏しくなったという政治的選択肢の縮小が見られているが、イタリアでは、むしろ、実務家を中心に経済政策での実績を上げているともいえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スペインでポデモスという新興政党が突如登場し、二大政党制の解体とも見られる事態が発生し、イタリアでレンツィ政権が選挙によらずに成立し、いわゆる非憲法的政権が継続した。これらの急激な事態の変化をフォローするため、各国間の比較とそれらを統合した一般化の作業を棚上げし、各国の国内政治の検討に力を注ぐ必要があった。そのため、EUレベルとの国内政治とのリンケージを中心に個別研究が進み、南欧地域内の政治的相違についての分析が深まったが、南欧地域全体の共通性および他地域と比較した南欧の政治的地域特性については十分な成果を発表できなかった。 また、国外から研究者を呼んで意見交換をする予定でいたが、南欧三カ国のいずれにおいても、党派的な言説を超えた社会科学的な見地からの、ユーロ危機に対する政治的分析の蓄積が乏しく、招聘交渉が不調に終わった。
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今後の研究の推進方策 |
スペインでポデモスという新興政党の擡頭による二大政党制の解体とも見られる事態が続いており、イタリアで非憲法的政権であるレンツィ政権が継続しているが、これらの事態に加え、ギリシアの急進左翼連合の政権成立という新たな事態が平成27年に生じた。しかも、そのギリシア新政権とヨーロッパ委員会、ECB、IMFとの交渉は、ドイツをはじめとする債権国あるいは東中欧、北欧諸国における対ギリシア強硬論の強まりにより、一層混迷の度を加えている。こういったギリシアとトロイカの交渉、南欧の外のEU諸国の動向は、本研究が直接の対象とするスペイン、イタリア、ポルトガルにも大きな影響を与えるとみられる。そこで、文献収集のみならず、積極的な海外での資料調査などで、これらの急激な事態の変化をフォローすることが一層必要となると思われる。もちろん、個別研究においては、それぞれの国内の政治構造とEUあるいはグローバルなレベルでの政治経済の拘束のいずれに限定することなく、EUレベルと国内政治とのリンケージを踏まえて、ユーロ危機の国内政治での影響を分析するという、26年度に行なった分析をさらに深めていく必要がある。こういった個別の研究の進展については、研究代表者・分担者がそれぞれの成果を活字あるいは口頭で発表する予定である。 さらに、本研究グループとして、個別研究の突き合わせを行なうことで、各国間の比較とそれらを統合した一般化の作業をすすめる。現在、印刷形態で発表する場を求めて、交渉中である。 また、海外の研究者との意見交換のため、海外の学会への参加だけでなく、平成26年度に不調に終わった海外研究者の招聘についても、可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国からの研究者を招聘した研究会あるいは(ミニ)シンポジウムを計画していたが、交渉が不調に終わった。政治状況の変化が急激なため、また研究者の発言も日本よりも党派的な発言や行動が多いため、現状分析を政治学として行なっている研究者の数がいずれの国においても少ないことがわかった。そこで、無理に招聘実績をつくるのでなく、招聘にふさわしい研究者との交渉と、自らの成果発表とを両にらみで進めた結果、平成26年度においては、活字成果の準備を優先することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降も、招聘にふさわしい研究者との交渉と、本研究参加者の研究成果発表をともに進めるが、上記の理由により、無理に招聘実績を作るのでなく、海外で開催される学会への参加や必要な海外調査との兼ね合いで柔軟に対処していく。
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