研究実績の概要 |
本課題では道徳的美徳の獲得と美徳により共同体に貢献することを重視する徳倫理を行動経済学に導入して政策を評価する研究を理論と実証の両面から進めた。 理論面の研究では、政策評価の理論的基礎となる2本の論文のうち、1本をBhatt, Ogaki, and Yaguchi (2014)に発表した。この論文では道徳評価関数を導入して社会状態の規範経済学的評価を行うことを提唱した。さらに、経済学で広く用いられている社会的厚生関数による厚生主義に基づいた評価と徳倫理を用いた評価をバランスさせるため、2つの関数の加重平均として社会目的関数を定義した。もう1本Bhatt, Ogaki, and Yaguchi (2015)では徳倫理を内生的利他主義経済モデルに応用するための「利他主義の道徳的美徳基準」を定義し,道徳評価関数が満たすべき基準を明らかにした。さらに徳倫理と経済学で従来広く使われてきた厚生主義をバランスさせて評価するため、従来の経済学で広く用いられてきた弱パレート基準とこの利他主義の道徳的美徳基準を修正し、他の倫理的な要因との競合が起こらないときにのみ、これらの基準で社会状態を評価できると基準を定義した。これらの修正された基準が社会目的関数の満たすべき条件である。 実証面の研究では、イスラム教徒、ヒンズー教徒、仏教徒、キリスト教徒など多様な宗教の信者の多いマレーシアで昨年度収集したインターネットによるアンケート調査の分析を行った。特に環境保護行動のデータから宗教は保護行動に影響をしないが、輪廻に高い主観的確率を付与する人たちは、行動により高い支払い意欲を示すなど、世界観が行動に影響していることを示す結果が得られた。
|