研究実績の概要 |
本年度はこれまでに行ってきた研究成果を2つの論文に纏め、関連した国際コンファランスをイタリアにおいて開催し、欧州の研究者と意見交換を行った。具体的な内容は以下の通り。 1.EU、OECD諸国の国別パネルデータを用いて政府債務と経済成長の間の関係をpanel VARによって分析した。われわれの研究の特徴は、政府債務と経済成長の間の波及経路、とりわけ実質金利の役割に着目して分析を行ったことである。その結果、GDP成長率から政府債務に対して負の因果性が観察された。特に、政府債務を多く抱える諸国では、政府債務から経済成長への負の効果が、実質金利の上昇によって増幅されることがわかった。この成果は Ogawa, K., Sterken, E. and I. Tokutsu (2016). "Public Debt, Economic Growth and the Real Interest Rate: A Panel VAR Approach to EU and OECD Countries という論文に纏められ大阪大学社会経済研究所のDPとして発刊された。 2.R&Dの成果が国際間でどのように波及して、各国の総要素生産性にどの程度影響を与えるのか、国別パネルデータを用いて分析を行った。EUの先進諸国では限界社会収益が限界私的収益を大きく上回っているが、EUの新興諸国では両者に大きな差異がないことがわかった。この結果は、先進諸国ではより多くのR&Dのスピルオーバー効果が期待できるが、実際のR&Dストックは社会的最適水準よりも小さいことを意味しており、これが新興EU諸国の生産性の上昇を妨げている一因になっている。この研究成果は Ogawa, K., Sterken, E. and I. Tokutsu (2016)."International R&D Spillovers and Marginal Social Returns on R&D" に纏めた。 3.欧州におけるR&D,生産性と技術革新に関するシンポジウムを2016年11月20日にローマで開催した。上記のわれわれのR&Dスピルオーバーに関する研究論文もそこで報告され、欧州の研究者と意見交換を行った。
|