研究課題/領域番号 |
25285073
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
依田 高典 京都大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (60278794)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会実験 / フィールド実験 / スマートグリッド / デマンドレスポンス / ダイナミックプライシング |
研究概要 |
本研究「電力消費デマンド・レスポンスの経済効果の実証研究」では、ランダマイズド・エクスペリメント手法を用いて、電力消費に関する個票データに基づいて、ピークカット・ピークシフトのトリートメント効果評価を行い、それら経済効果の日米国際比較を通じて、日本のスマートグリッドの経済効果の測定を行います。特に、同じような研究課題に取組む米国研究チームとの研究交流を密にし、国際共同研究の推進に注力します。そして、本実証研究の結果をもとに、電力産業の規制改革への含意を議論します。 第1年度にあたるH25年度では、RE社会実験のセットアップを行いました。RE社会実験の候補地としては、スマートグリッドの社会実験の対象となっている神奈川県横浜市の新築・既築の2,000世帯としました。RE社会実験にあたっては、トリートメントを決定し、サンプルをランダムにコントロール・グループとトリートメント・グループに振り分けました。 以上のようなRE社会実験設計に基づいて、2013(H25)年度夏以降、データの本格的な収集を行いました。収集されるデータは、スマートメーターから得られる30分値の電気使用量(kWh)であり、これらを利用して、気温・電気料金データと合わせて、時間帯別デマンド・レスポンス効果の計量分析を行いました。ピークカットは1日のピーク時電力消費量の削減率から定義しました。また、ピークシフトは1日のピーク時電力消費量とオフピーク時電力消費量の比率の平準化として定義しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以上の通り、当初の予定通り、研究は進捗しており、引き続き、研究実施計画に沿って、研究を進めます。また、本研究に関連する研究成果は、一部、以下の学術雑誌から出版されました。 [1] Tanaka, M. and T. Ida (2013) "Voluntary Electricity Conservation of Households after the Great East Japan Earthquake: A Stated Preference Analysis" Energy Economics vol. 39: 296-304. また、研究成果は、一部、以下のような一般啓蒙活動として発表されました。 [3] 大賀英治、依田高典、荒牧敬次、田中誠 (2013) 「北九州スマートコミュニティ創造事業におけるダイナミックプライシング実証」建築整備士 2013.4: 12-17. [2] 依田高典 (2014) 「電力改革と暮らし(全10回)」日本経済新聞「身近な疑問を読み解くやさしい経済学」2014.3.31-4.11.
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今後の研究の推進方策 |
第2年度にあたるH26年度では、データの計量経済学的分析に当たります。データの収集と整理には膨大な手間暇がかかることから、データ調査機関への一部外注も検討しています。RE社会実験に基づくトリートメント効果の推定作業は極めて単純です。RE社会実験において、価格トリートメントに関して、参加者が上表のように、ランダムに2つのグループに分かれています。第0期では、両グループとも、電気料金が変動しない通常料金を受けます。第1期では、トリートメント・グループだけが、ダイナミックプライシングというトリートメントを受けます。 ここでは、2つのグループをランダムに分けているため、原理的に2つのグループ間での統計的違いはトリートメント効果以外にないという点がREの最大の強みです。誤差項や推定にモデルに強い仮定を置かなくても、単純な差の差(Difference in Difference)回帰式で不偏推定量が得られます。例えば、ダイナミックプライシングに興味のある人をトリートメント・グループとする従来型のセレフセレクション型社会実験を考えます。興味のある人と興味のない人はそもそも全く異なる選好を持っていることに注意しなければなりません。その結果、2つのグループの間に統計的に有意な電力消費量の差が得られても、それがダイナミックプライシングの効果なのか、そもそも全く異なる選好の結果なのか識別できません。 このようなセレフセレクションを内包したトリートメント効果を社会実験の効果として報告することは、学問的に誤りであるばかりか、政策的に利用された場合、多くの公共資金を本来ならば投入すべきでない政策に対して投入する危険性を持ちます。従って、現在は、開発経済学・労働経済学をはじめとした多くの経済学分野でRE社会実験に基づかない研究結果の利用について慎重な意見が投げられるようになっています。本研究はそうした問題に対処しています。
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次年度の研究費の使用計画 |
スマートグリッドの社会実験の対象となっている神奈川県横浜市の新築・既築の2,000世帯となりましたが、2013年度から継続して2014年度も実証調査を行うことから、調査の必要経費として、一部、次年度に繰り越しました。また、2014-15年度に研究成果の外国語での出版を計画していることから、そのための英文校正費のためにも、一部、次年度に繰り越しました。 繰り越しした研究費は、2014年度は、2013年度に継続して、実証調査を行うこと、また、2014-15年度に研究成果の外国語での出版のために支出します。
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