研究課題/領域番号 |
25285083
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中川 雅之 日本大学, 経済学部, 教授 (70324853)
|
研究分担者 |
瀬下 博之 専修大学, 商学部, 教授 (20265937)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 瑕疵担保責任 / 中古住宅流通 / エスクロー / 人口減少 / 少子高齢化 |
研究実績の概要 |
日本の不動産制度と海外の不動産制度の理論的な比較を進めた。特に、売り手責任、買い手責任という取引の根幹となるルールが与える影響について議論を進めた。瑕疵担保責任に代表されるように、日本では売り手責任が原則である。これが、中古住宅流通の阻害となっている可能性があることを考察した。日本においても、買い主責任となれば、買い手は不動産売買のような金額の大きな取引で大きなリスクを負担することになる。ただし、売り手はリスクを転嫁できるため従来よりも安い価格で住宅を購入できるようになり、さらに、このようなリスクを軽減するために買い手はさまざまな市場サービスを利用することもできる。まず、買い手は購入する住宅の品質を正しく評価して適切に価格付けすることで損失やリスク負担をできるだけ回避しようとするだろう。そのための市場サービスがインスペクションのようなサービスである 。権利の瑕疵についても、アメリカでは、この問題についてエスクロー会社や権原保険会社(Title Insurance company)などが重要な役割を果たしている。また、購入後の品質リスクに対しては、民間保険会社から保険契約を購入することもできる。アメリカではあまり普及していないといわれるが、イギリスでは住宅ローンの融資条件になっているために広く普及しているとも言われる 。さらに、欠陥があっても自分でリフォームや修繕することで多くの問題は簡単に解決できる可能性がある。これらの議論は、邦文雑誌で公開されている。 また、不動産取引の背景となる、人口減少や少子高齢化が住宅需要や土地需要にどのような影響を及ぼすかという観点から、東京都と地域問題に焦点を当てた数多くの論文を邦文雑誌に掲載している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本の不動産制度と海外の不動産制度の理論的な比較を行うことができた。また、不動産業者及び消費者に対するアンケートを実施することもできた。後者について説明を加える。現在、不動産取引の際に、インスペクションの有無を重要事項説明に加える宅建業法改正案が国会に提出中である。これに着目して、行動経済学的な検討を加えるためのアンケートを実施している。具体的には、市場の価格情報をプロ(不動産業者)も消費者(売り手、買い手)も、建物の品質の情報と価格の関係を正しく把握できているのかとう点を調査している。特に売り出し価格の決定においいて、それを調整するはずの不動産業者の査定におおいても、売り手の売り出し希望価格のアンカリングが働いているのではないか?、買い手のWTPの決定においても、不動産業者の査定(どの物件を推薦するか)のアンカリングが働いているのではないか?という問題意識の下に、大規模なアンケート調査を実施している。 以上のことから、概ね順調に推移していると評価できるだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
国会提出中の宅建業法改正案の内容である、不動産取引の際の情報提供量の増大を義務付ける措置の効果を理論的、実証的に検討することを優先する。このため、昨年実施したアンケート調査の実証分析を進めることとする。 また、双方代理に関する理論的な研究をさらに進めることとする。バーゲニングステージにおいては、売り手あるいは買い手の代理人として、詳細な契約条件についてそれぞれ相手と交渉をし、融資、登記などの関連手続きも含めて契約するエージェント制が米国では一般的である。このため、基本的には売り手のエージェントか買い手のエージェントの一方を不動産業者は務め、双方代理はその旨を開示した場合にのみ可能となっている。一方日本では、双方代理について米国のような厳格な措置はとられていない。実際に生じている双方代理については、厚生上の損失があるという先行研究が多数存在する。それらの理論的研究を踏まえながら、一昨年のMLSのデータなどを活用しながら、双方代理の及ぼす影響についての見当を勧めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
不動産業者向け、一般消費者向けアンケートのうち、郵送で行ったものの、集計等について委託するのではなく、内部の作業として行うこととしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
MLSデータを用いた実証分析用の作業のための、人件費等として使用する予定である。
|