今年度は、米国の不動産業のモデルのITテクノロジーへの志向性が高い部分に着目した研究を進めた。ビッグデータの蓄積、AIやVRなどの様々な技術開発、普及の進展を背景に、不動産市場にそれらのテクノロジーを導入する条件が、日本においても整いつつある。 しかし、萌芽的に進みつつある日本におけるテクノロジーの導入は、個々の不動産業者と売り手又は買い手へのサービスの効率性を向上させるものに偏っている傾向がある。つまり、市場の統合を進め、物件の一覧性、総覧性を実現するタイプのテクノロジーの導入は日本においては、まだ途上にあると受け止められる。 本年度の研究では、買い手に対する情報の非対称性を緩和するタイプのテクノロジーと、市場の統合を実現するタイプのテクノロジーが、それぞれ不動産市場や不動産業者にどのような影響を与えるかをシミュレートしてみた。 その結果、二つのタイプのテクノロジーの導入とも、不動産市場の拡大をもたらすため、テクノロジーの導入のコストがそれを下回る限り、その導入の社会的意義は大きいものと評価することができた。しかし、後者の市場を統合するタイプのテクノロジーについては、市場の統合前に良質で高価格の手数料を独占した不動産業者の収益を引き下げる可能性も指摘された。このため、このタイプのテクノロジーの導入にあたっては、不動産市場の拡大に関する明確なビジョンの提供、あるいは参加業者の集団的意思決定に基づく共同行為が必要になるものと考えられる。
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