研究課題/領域番号 |
25285090
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井伊 雅子 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50272787)
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研究分担者 |
葛西 龍樹 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (80248228)
森山 美知子 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 教授 (80264977)
亀坂 安紀子 青山学院大学, 経営学部, 教授 (70276666)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プライマリ・ケア / 満足度調査 / レセプト・データ / 地域医療 / 診療の標準化 / 医師誘発需要 / 社会保障費 / 費用対効果 |
研究実績の概要 |
医療制度満足度に関するアンケート調査とレセプト・データを用いて、日本のプライマリ・ケア制度、特に地域医療の特徴と問題点を分析した。 まずは情報提供の仕組みである。日本の医療制度では病気や気になる症状が出て初めて医療機関にかかる仕組みになっており、健康時から継続的に地域住民の健康状況を把握している医療者がほとんどいない。そのため緊急時に医療機関を選ぶ情報源として、友人や知人の意見やインターネットなどの情報に頼ることになり、信頼できる情報が不十分である。日本で医療制度に関する不満が多い理由の一つとしては、地域の医療機関を選ぶ時の情報(特に夜間、週末、休日での受診)が不十分であること、「かかりつけ医」がいても、夜間や休日の救急時に必要な医療を受けられないと思っている人が多いことが今回の調査で明らかになった。 次に、レセプト・データを用いて、わが国の生活習慣病(高血圧・糖尿病)の外来診療を解析した結果、生活習慣病の診療には大きな地域差(二次医療圏間の格差)があり、特に一人あたりの外来医療費や受診間隔の差が大きいことが明らかになった。この差は患者の属性や臨床特性(併存症など)で調整しても説明できなかった。病院でも診療所でも、1人あたり外来医療費は地域の医師密度と強く関連した。また平均受診間隔(受診頻度の指標)は、病院の方が診療所より顕著に長かった。診療所の医師密度は受診間隔と関連するが、これだけで外来医療費の地域差は説明できない。一方病院医師密度と受診間隔は関連しないにも拘わらず、1人あたり外来医療費は医師密度と強く関連した。 受診頻度の医学的効果を検討するために、操作変数法を用いて受診間隔が疾患コントロールに与える影響を推定した。推定の結果、受診間隔は疾患コントロールとほとんど関連しなかった。受診頻度が医学的な必要性と無関係に決められている現在の状況は好ましくないといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
満足度調査とレセプト・データの分析結果は、財務総合政策研究所機関誌 『フィナンシャル・レビュー』「地域医療介護の費用対効果分析に向けて」(研究代表者の井伊が責任編集)」の論文として、平成27年6月に刊行予定である。 平成26年10月と平成27年2月には、財務省の財務総合政策研究所において報告を行った。論文の一部は国際学術雑誌(Value in Health Regional Issues)に投稿し、受理された。
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今後の研究の推進方策 |
1. 全国2000人を対象に行なった医療制度の満足度調査の分析を一層進める予定である。具体的には計量経済学の手法を用いて、日本人の医療制度への満足度、受けた医療への満足度の要因の詳細な分析を行なう。 2. 平成26年度に用いた協会けんぽのレセプト・データを引き続き用いて精神医療と歯科診療の分析を行なう。精神疾患に関しては、日本では多剤投与や長期投与が問題になっているが、最近の研究(British Medical Journal(2014)など)では睡眠薬の長期投与とアルツハイマー型認知症の発病の関連が示唆されている。睡眠薬の長期服用は依存症等の深刻な問題を引き起こす恐れがある。日本では長期処方が一般的に行なわれているが、協会けんぽのレセプト・データを用いて、日本全国の睡眠薬処方の実態を分析する。 歯科診療に関しては、諸外国では一度治療をすれば8、9割は再治療の起こらないところを、日本では短期間で再治療を繰り返していると考えられる。 レセプト・データでその現状を明らかにし、いかに質が担保されていないか、それによって無駄な医療費が費やされているかを示す。 3. 平成26年度に行なった研究結果をもとに学術雑誌への投稿を行なう準備をする。Health Affairs, British Medical Journal などに投稿する準備を進めている。 4. 研究で使用するレセプト・データは主に二次、三次医療に関する医療情報を分析するには適しているデータベースである。地域住民の健康問題をより正しく捉えるためには、プライマリ・ケア(一次医療)の国際分類(ICPC)に基づいたデータベース作りが不可欠となる。オランダでは1971年から行われているContinuous Morbidity Registration というプロジェクトがあり、地域の家庭医が診療内容を継続して蓄積しているデータベースがある。オランダの研究者と協力をしながら、日本の現状に合わせたプライマリ・ケアの疾病分類に基づくデータベース作りを進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
先方とのスケジュール調整がうまく行かなかったため、ヨーロッパへの出張を2014年秋から、2015年4月に変更した。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年4月に英国へ出張。
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