研究課題/領域番号 |
25285109
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
杉本 大三 名城大学, 経済学部, 准教授 (90434620)
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研究分担者 |
井上 貴子 大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (10307142)
杉本 良男 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60148294)
杉本 星子 京都文教大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70298743)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 消費 / インド / 都市 / 経済 / 広告 |
研究概要 |
本科学研究費補助事業では、インドの都市消費市場の実態と構造を、都市部貧困層を含む都市社会構造と関連付けながら明らかにすると同時に、農村部からの出稼ぎ労働者の都市での消費に注目することにより、都市住民の消費の農村的性格を抽出することを試みる。科学研究費補助事業初年度に当たる2013年度は、インド都市部の消費分析に関連する研究成果として、杉本大三が、インドの都市部及び農村部における食料消費の地域的特徴と変化について、インド政府の実施する「全国標本調査」の結果に基づいて分析を進め、その成果を2014年3月に共著学術書の一章として取りまとめた。論文を寄稿した学術書は現在編集作業中であり、年内に刊行予定である。また、都市部の消費構造を農村部のそれと関連づけようとする本研究では農村部の社会構造分析が不可欠であり、この点について、杉本大三が、植民地期から現在に至るインド、パンジャーブ州の農業の発展過程と農村社会の変容について分析を行い、その成果を日本評論社より近日中に刊行予定の叢書『激動のインド』の一部として発表した。また、柳澤悠(連携研究者)は、単著『現代インド経済-発展の淵源・軌跡・展望』において、多様な消費変動が社会の発展に及ぼしたインパクトに注目しながら、インド経済の長期変動を描出している。このほか、本研究参加研究者全体で、合計6回の学会報告を行っており、研究成果を積極的に公表しているところである。 また内部の研究会を2013年7月1日と2014年3月17日の2回わたって開催した。第1回の研究会では初年度の研究計画について話し合うとともに、インドの食料消費について研究発表が行われた。第2回研究会では研究参加者の6名全員が初年度の研究成果について報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では主に、①都市的消費の実態の解明、②都市部および農村部の社会構造の解明、③前項に基づく農村部から都市部への出稼ぎ労働の分析、④都市部における消費が農村的性格を持つことの論理的考察という、4つの課題に取り組む。分析素材とするのは都市部及び農村部で実施する実態調査や、政府が実施してきた様々な社会調査及び統計調査の結果、タミル語雑誌広告、小説などであり、そうした資料の収集と掘り起こしも本研究の重要な作業と位置付けている。 初年度には、都市的消費実態の解明に関して、既に研究実績で示されているように食料消費分析の成果を取りまとめたほか、タミル語雑誌広告資料やインド政府労働局による「都市労働家計調査報告書」の収集が大きく進展した。タミル語雑誌広告は1990年1月から2012年12月までのKumudam誌およびAnanda Vikatan誌に掲載されているものを画像データとしてデジタル化した。「都市労働家計調査報告書」は労働者の労働条件と生活条件に関するものであり、1950年台から2000年代までに実施された調査の結果を収集した。いずれについても現在分析作業を進めているところである。このほか、近年の衣料品の消費変化が産地に及ぼす影響を検討するために、タミルナード州の絹織物産地を調査した。さらに、都市部および農村部の社会構造の解明についても研究実績の項目で示した通り、インド全体の社会変動やパンジャーブ州農村部の社会変化についてすでに成果を発表している。このほか、政府の実施する「全国標本調査」の電子データを社会構造変化の分析素材としてすでに入手しており、今後の包括的な統計分析への準備が完了している。 以上のように都市的消費の実態解明や、都市部と農村部の社会構造の解明という、本研究の基幹部分について分析がほぼ終了していることから、本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後取り組むべき研究課題は大きく分けて2つある。ひとつは、都市的消費の実態のいっそうの解明である。このために以下の4つの研究を進める。 第1に、すでに収集したタミル語雑誌広告と「都市労働家計調査報告書」の分析を進め、都市的消費の実態について新たな事実の掘り起こしを図る。第2に、酒を含む奢侈的食料消費、衣料品、宗教巡礼や婚礼を含む宗教行事など、消費の多様な実態に関するいっそうの研究を進める。第3に、都市貧困層の消費を特徴付け、本研究でも計画段階から注目しているインフォーマル部門製造品(ビーディー、再生プラスチック製品など)の研究に注力する。第4に、語りに現れた消費をたどるために、マラヤーラム語の雑誌、自伝、小説による消費分析と、タミルナード州タンジャーヴール県ティルヴァイヤール郡の農村での消費の長期的変化に関する高齢者への聞き取り調査を実施する。 ふたつ目の研究課題は都市部の社会構造の解明であり、全国標本調査と人口センサスの結果の分析に取り組む。この作業によって、都市部の社会構造を解明し、都市部における消費の変化を、社会構造の変化と結びつける。その際、出稼ぎ労働者の流入を明示的に考察し、それが都市部の社会構造と消費に及ぼす影響を明らかにする予定である。 2014年3月17日に開催した本研究参加者による研究会の場において、2015年度日本南アジア学会でセッションを組織し、本研究の成果を発表すること、及び、同年度末を目処として研究成果を出版することを合意した。今後速やかに所期の研究課題を遂行し、この目標の実現を図ることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では英語を解さない人々の消費動向を研究するために、タミル語雑誌KumudamとAnanda Vikatanの2誌に掲載されている広告を画像データとしてデジタル化した。対象期間1990年1月から2012年12月までの22年間、合計冊数は276冊であり、デジタル化作業は、Roja Muthiah Research Libraryに依頼した。予算見積もりの際、過去に行ってきた同様の作業から1冊当たり25ページの広告数を見込んだが、実際に作業を行った結果、広告数は1冊当たり20ページ程度にとどまった。画像データの撮影枚数が予定を大きく下回ったため、予算残が生じた。 研究計画において収集を予定していたインド国立栄養調査局実施の栄養摂取調査の結果が未入手となっているので、その収集のために使用する。また、インド独立直後における国民の消費動向を知るためのきわめて貴重な資料である1950年代の「全国標本調査」の結果の収集にも使用する。これらの資料を収集・分析することにより、都市部における消費の変化をより詳細に解明することが可能になるはずである。
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