研究課題/領域番号 |
25285121
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三橋 平 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (90332551)
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研究分担者 |
ALCANTARA L.L. 立命館アジア太平洋大学, 国際経営学部, 准教授 (10584021)
閔 廷媛 九州大学, 経済学研究科(研究院), 講師 (30632872)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 経営学 / 経営戦略 / 経営組織 / 傾注ベース論 |
研究実績の概要 |
ここでは完成した論文として,自動車部品メーカーによる海外進出,および,市場進出データを用いた論文について主に報告を行う。この論文のテーマは,多市場コンタクト理論である。ある産業においては,技術市場,製品市場,材料市場,地域市場などの異なるタイプの上位市場が存在し,この上位市場の中に,例えば,アジア,北米,欧州のような下位市場が存在している可能性がある。この場合,例えば,2つの上位市場で競合と対峙し,その上で,それぞれの上位市場内の下位市場において対峙している可能性がある。1つの上位市場だけでの多市場コンタクトだけでも,認知資源が枯渇している経営者は簡便な方法で市場構造を理解している先行研究を踏まえると,2つの上位市場のそれぞれで発生している多市場コンタクトの影響についても検討を行う必要がある,というのが本研究のテーマである。仮説としては,2つの上位市場においてのそれぞれの多市場コンタクトを合理的に判断して行動する仮説,どちらか高いコンタクトの影響だけを受けて行動する仮説,そして,常に一方のコンタクトの影響だけを受けて行動する仮説,を構築し,自動車部品市場の製品,及び,地域市場のデータを用いて検証した。その結果,全てのサンプルを用いた場合には,第3の方法が取られるが,小規模の企業の場合には,第2の方法が採択されていることが明らかになった。 また,本論文以外のプロジェクトとしては,米国証券市場アナリストデータを用い,顧客からの傾注獲得のためにアナリストが採択する「目立つ」」予想に関する研究(論文発表済み),フィギュアスケートのジャッジが判断を簡便化するために用いるヒューリスティックに関する研究,鉱山市場において経営者がホスト国における政治的過程を学習していくプロセスに関する研究,そして,経営者予想がオーディエンスの期待を形成していくプロセスに関する研究が行われている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3つの理由が考えられる。まず1つは,作業自体は進んでいるが,論文発表に至っていないものが増えてきている。これは,当初想定していた理論,仮説とデータ間の不整合があまりにも大きく,論文の構想自体を改訂する必要があるものが多いためである。例えば,経営者予想に関するプロジェクトでは,当初は,predictable surpriseの理論をベースとし,警告や警鐘が無視される現象を,受け手ではなく発信側から分析する予定であった。しかしながら,この理論をベースとした場合,受け手と発信側のインターアクションを同時に見ることができないため,当初予定していた理論フレームワーク自体を見直す必要が出てきている。再度文献を渉猟し,その上で仮説自体も再構築した段階である。 第2の理由は,時間やエフォートという資源が限られている中で,プロジェクトの数が増加傾向にあるためである。これは,必ずしも全てのプロジェクトが同じステージでないため,複数のプロジェクトを同時に行う必要があるためである。しかしながら,プロジェクト間のシナジーが弱く,場合によっては共通する文献ベースも少ないケースもある。そのため,視点の拡張という意味では様々なプロジェクトを行う意義はあるが,逆に,エフォートと時間が分散されてしまっていることが問題である。 第3の理由は,新たにデータベースの作成に着手したいと考えているが,この点が遅れているためである。今回の研究課題は傾注というキーワードで進めてきたが,組織の現象面としての成長や滅亡ということに対する関心が弱かった。そのため,論文として完成しても,これは経営学の論文かという批判が少なくないものもあった。今後は傾注を意識しながらも,経営学よりの現象を説明できる論文をまとめるべきだと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては以下の3つを考えている。第1に,現在理論フレームの再検討が求められているプロジェクトについては,理論フレーム間のシナジーや整合性を高め,論文間で時間とエフォートが分散しないように進めていくことである。もちろん,レビューアーの意見等によってフレームワークを研究チームだけで決められない問題があるが,多様なプロジェクトに取り組む意義を高める努力をしていきたい。 第2に,データベースの構築である。現在考えている選択肢の1つとしては,あるカテゴリーが消滅する際に,逃げ出せる企業と逃げ出せない企業が存在する。例えば,ニューミュージックというカテゴリーが以前は存在したが,すでに消滅している。その際,どのような企業やアクターが次のカテゴリーに抜け出し,一方,抜け出せなかったのはどのようなアクターなのか,という問題に興味を持っている。仮説としては,消滅前後のネットワーク構築の方法にあり,すでに消滅の危機を察するネットワークと,埋没するネットワークに分けられるのではないかと考えている。この仮説に適したデータベースを探索している。 第3に,より具体的には,現在進めている論文を完成させる,また分析を進めている研究についてはセミナーや学会発表を通じて中間発表を行い,フィードバックを元に論文を改訂していく予定である。今後もさらに生産性に対して注意を払い研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は学会発表を通じて中間発表の機会を設け,フィードバックを頂く予定であった。しかしながら,学会以外のよりインターアクティブに議論を行えるセミナー発表の機会(例えば,中央大学企業研究所セミナー,慶應義塾大学産業研究所セミナー,実証的モラルサイエンスセミナー)が増えたため,学会発表の重要性が当初より弱まった。そのため,当初考えていたよりも,学会発表に行く必然性が減少したため予算の次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度でもあるため,セミナー発表だけでなく,学会発表についても積極的に行い,結果については知見を共有する目的意識を高めていきたい。また,今後は論文をまとめる段階のものも増えてくるため,発表前の英文校閲でも予算が必要となる。
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