研究課題/領域番号 |
25285167
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
矢島 卓郎 目白大学, 人間学部, 教授 (60438885)
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研究分担者 |
山下 利之 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (90191288)
雪吹 誠 目白大学, 人間学部, 講師 (70438886)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 重症心身障害 / 体感音響装置 / 療育活動 / 心拍変動 / サーモグラフィ / スペクトル解析 |
研究概要 |
1.医療型障害児通所施設における療育活動: 75施設で回収率49%、1施設1日平均利用者数は10名、大島分類1で成人が多い。療育は2~5名、31~45分かけて、楽器演奏、集団で音楽活動、音楽鑑賞、マッサージ、タッチングによる触刺激などを、活動内容、姿勢、表情などに配慮しておこなっていた。通所施設は医療的ケアを必要とする障害者が重症児の約3倍多く、主に看護師、介護福祉士と保育士などが障害程度に合わせて療育を行っていること、職員は療育活動の保障に苦慮していることが推察された。 2.体感音響装置による音楽呈示の基礎的検討:対象は成人女性2名、うちデータ良好な1名の心拍変動と皮膚温の変化を検討した。呈示音楽は「音薬」とし音薬呈示前後に各3分間の安静状態を設定。① 呈示音楽の特徴;「音薬」は各曲約3分20秒の7曲から構成。分解能1HzでFFTにより周波数分析した結果、最大パワの周波数は65Hz、73Hz、83Hz、87Hz、99Hz、110Hz、124Hzと順次高くなり、低周波数領域の強調とシンセサイザーの特徴が認められた。②心拍変動の周波数分析;各曲3分間の心拍変動のゆらぎをFFT解析し、副交感神経活動を反映するHF (0.150-0.400Hz)成分と交感神経活動を反映するLF/HFを求めた。その結果、音薬の呈示中は副交感神経が亢進し交感神経活動が抑制されている様相を示した。③皮膚温の変動;顔面神経が支配する額、鼻、頬、涙腺付近、耳、口下の領域の皮膚温変化は安静時と比較して鼻が2.4度、頬が2.1度、口下が1.5度上昇し、他の領域は明確でなかった。従って、皮膚温測定の領域は鼻と頬が適している可能性が認められた。④皮膚温の変動とLF/HFの関係;安静と7曲呈示のLF/HFと鼻・頬・口下の皮膚温の変動は、口下、鼻、頬の順に相関係数が-0.65、-0.55、-0.45で相関が認められた。よって、体感音響装置による音楽呈示が自律神経系に影響すること、皮膚温も指標として有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.研究用機器の納入の遅れの影響:今年度の科学研究費補助金により、呈示音楽の周波数分析を瞬時におこなうデジタルオシロスコープ、皮膚温を測定する赤外線サーモグラフィなどを科研費交付後に発注した。しかし、赤外線サーモグラフィの広角レンズは、注文後に製作するため、予定よりも遅れ、研究を実施する前の機器の機能や操作を納入業者に講習を受ける日程が共同研究者間で調整がつかず、秋学期途中になった。そのため実験などが、春休みに入るまで実施できなかった。しかし、現在は、測定機器やデータ解析の機器を含めて操作法を習得すること、予備実験で心拍変動、皮膚温の変化の解析もできたことから研究法が確定できたので、今後は計画に沿って研究を行えると考えている。 2.中日友好病院への研修の中止:尖閣諸島の問題に関わる日中の政情不安や大気汚染の状況から、当初予定していた中日友好病院で行っている障害児者への体感音楽療法の研修が行えなかった。そのため、超重症児を含む障害児の医療と療育の実情を韓国研修で代替した。障害児者への体感音響装置を活用した取り組みはフィンランドの研究者も行っており、本年度に可能になれば実施して臨床的研究の実情を研修して、次年度から実施予定である重症児者への導入の参考にしたい。 3.医療型障害児入所施設と通所施設へのアンケート調査延期: 今年度はパイロット的に行った通所施設へのアンケート調査をまとめて学会に報告したが、入所施設と通所施設のそれぞれから重症児者への療育活動の共通項をもとに改めてアンケート調査を行うところまでは行えなかった。現在、新たな質問紙を作成中であり、近々実施する予定でいる。 以上の理由により、研究所年度の研究の進捗は必ずしも予定通りではなかったが、今後、研究を進める素地はでき、これを基に26年度から本格的に研究が実施できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの研究をふまえ、今後の研究の方策は次の通りである。 本研究の柱は、1.健常学生の体感音響装置による振動刺激に対して認知及び生理指標から受容特性を研究 2.健常学生の体感音響装置による音楽刺激に対して認知及び生理指標から受容特性を研究 3.重症心身障害児者の体感音響装置による振動刺激に対して生理指標から受容特性を研究 4.重症心身障害児者の体感音響装置による音楽刺激に対して生理指標から効果を検討する 5.集団における重症心身障害児者の体感音響装置による音楽刺激に対して効果を検討し重症児者の療育活動を開発する、ことにある。また、その基礎資料とするため、6.医療型障害児入所および通所施設の療育活動を質問票で調査し、その実情を把握することにしている。 この研究を推進するため、平成26年度は上記の1、2の研究の実験を首都大学東京で、6の研究およびデータ解析を目白大学で行うことにしており、いずれの研究も既に倫理審査委員会に申請している。また、次年度におこなう体感音響装置を用いた重症心身障害児者に対する研究のため、障害児者の治療に振動音響療法をおこなっているオラブ博士のもとで研修することを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の進捗状況で記したとおり、学生対象の実験と医療型障害児入所及び通所施設の療育に関わる本調査が実施できなかったことにより、学生に対する謝金やバイト代、印刷通信費が未使用であったこと、購入機器がキャンペーン価格で購入できたため予定価格に比べて廉価で購入できたこと、また、共同研究者が機器購入を次年度に延期したことにより繰越金が生じた。 今年度は、健常学生対象の2研究(健常学生の体感音響装置による振動刺激に対して認知及び生理指標から受容特性を研究及び健常学生の体感音響装置による音楽刺激に対して認知及び生理指標から受容特性を研究)と医療型障害児入所及び通所施設の療育に関わる本調査、そして、フィンランド在住のオラヴ博士の音響振動療法の研修を予定している。 そのため、今年度は、被験学生に対する謝金、データ整理のための人件費、実験用物品費の他、国内学会や海外研修費の使用を予定している。また、共同研究者が実験の場においてオンラインで皮膚温の解析のためのノートパソコンとプリンターの購入費用を必要としている。
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