研究課題/領域番号 |
25285167
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
矢島 卓郎 目白大学, 人間学部, 教授 (60438885)
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研究分担者 |
雪吹 誠 目白大学, 人間学部, 准教授 (70438886)
山下 利之 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (90191288)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 重症心身障害 / 体感音響装置 / 療育活動 / 心拍変動 / サーモグラフィ / スペクトル解析 |
研究実績の概要 |
1.体感音響装置の特性を計測する基礎実験 本研究では、体感音響装置から呈示される振動を人間がどう感じるか、心理物理的に検討することが目的のひとつであるため、振動盤とベッドパッドの特性を計測して調整し確認することが重要である。 体感音響装置のベッドパッド(13個の振動盤が埋め込み)の腰、両膝部に当たる2箇所に圧電式加速度ピックアップを埋め込んだ。その後、ファンクションジェネレータが呈示するサイン波を電圧、周波数を変えてベッドパッドの振動盤を駆動し、その振動をピックアップと振動計ユニットで計測し、その波形とジェネレータ出力波形をデジタルオシロスコープに取り込んで波形の平均電圧、SMSを分析した。その結果、ジェネレータからの出力は、0.1Vにすることが振動盤の特性を活かすこと、振動盤は15Hz以下と150Hzを越えると応答しにくいことを確認した。このことと音階の特徴から振動呈示周波数を35Hz、50Hz、70Hz、100Hz、140Hzにすることとした。 2.健常学生が振動を心地よいと感じる刺激強度と周波数に関わる基礎実験 大学生5名がベッドパットに仰臥位で安静にした後、35Hz、50Hz、70Hz、100Hz、140Hzのサイン波を上行、下行試行の順で呈示した。各周波数に対して、被験者は1分以内に心地よいと感じる強度をコントローラで決めた後、1分間の振動を呈示した。各刺激呈示間のジェネレータ出力と腰部の振動出力をデジタルオシロスコープに取り込み保存した後、被験者が心地よいと設定した強度のジェネレータ出力電圧の24秒間の平均電圧とRMSを計測した。その結果、5名の平均電圧、RMSともに140<100<70<35<50Hzの周波数の順に快適とする電圧は高かった。140Hz、100Hzが低電圧であることは5名とも共通しており、振動感覚が周波数と総エネルギー量に関係する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.研究用機器がほぼそろい、健常学生の振動に対する受容特性を確認する研究から始めるため、ベッドパッドに振動ピックアップを埋め込んでその特性を計測する基礎実験から始めた。しかし、ベッドパッドへの埋め込みがうまくゆかず、体感音響装置の開発者の助言を得ながら制作することにした。そのため、振動ピックアップを埋め込んだベッドパッドが完成するまでに想定以上の時間を要してしまった。しかし、その後の機器の作動チェックしても問題が生じなかったことから測定用のベッドパッドが完成したと判断し、健常学生を対象とした基礎実験を行うことができた。今後、健常学生の基礎および臨床実験、それを踏まえた重症心身障害児への適用には支障は生じないと考えている。 2.目白大学では年4回の倫理審査が行われ、申請後結果が分かるまで2ヵ月を要する。これまで、同様の実験を計画して倫理審査は通過してきたが、今回は、学科の倫理審査部会で合格していたにもかかわらず大学の審査では不合格であった。そのため、健常学生の研究を担当する研究分担者が在職する大学は毎月倫理審査が行われているため、改めてその大学で申請し直して合格を得た。このような手続きに時間を要したことも研究が遅れた理由である。今後、健常学生の刺激受容特性の実験に基づいて重症児者の研究に移るが、基本的にはこれまでも同様の研究で倫理審査は合格しており、前回の不合格の指摘をふまえて申請し、研究の遅延が生じないようにしたい。 3.前回、中日友好病院への研修を企画したが、政情不安から中止した。私と同様の障害児者への振動音楽の研究はフィンランドのオラブ博士も先駆的に行っているため、博士に研修を打診したものの生憎日程が合わず、平成26年度は断念した。しかし、その後も体感音響装置の会社を通じて打診しており、今年は研修研究が可能と返事を得ているので実現したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、以下の4研究を予定している。 1)健常者に対する体感音響装置(ベッドパッド)による振動刺激に伴う受容特徴の検討:どのような刺激呈示法と刺激強度が心地よさを感じ、リラックスをもたらすか、前年度におこなった周波数と強度の関係の結果をふまえて、今年度は刺激強度と持続時間の関係の特徴を検討する。健常学生20名を対象にジエネレータから前実験で同定した刺激強度で、35Hz、50Hz、70Hz、100Hz、140Hzのサイン波を体感音響装置に出力し、持続時間1分、2分、3分を組み合わせて呈示する。その振動刺激受容の特性を生理指標(心拍、皮膚温、唾液アミラーゼ値)と心理指標および行動観察から総合的に検討する。 2)健常者に対する体感音響装置による音楽呈示に伴う受容特徴の検討:前実験を参考に、30Hz~140Hzの周波数成分の多い音楽を選定し、その後、健常学生20名に振動のみ、音のみ、音と振動、を組み合わせた3条件で呈示する。その呈示曲の周波数解析もふまえて総合的に評価し、健常者に振動を伴う音楽呈示の効果を明らかにする。 3)重症児者の振動受容特性の検討:健常学生が心地よいと感じた周波数、持続時間で振動刺激強度と呈示時間を設定し、10名の重症児者に対してジェネレータ出力と体感音響装置を用いた取り組みを行う。言語表出のない重症児者のため、心的活動を反映する生理指標(心拍、皮膚温、唾液アミラーゼ値)と心理指標および行動観察から総合的に心地よい刺激強度と持続時間を推定する。 4)体感音響振動療法の研修:9月にフィンランドのオラブ博士を訪ねて重症児者に行っている体感音響振動療法について学ぶとともに意見交換をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.研修旅費の未使用:1980年代から重症心身障害児者に対して振動による音楽を呈示する実践研究をおこなっているフィンランドのオラブ博士のもとで研修を依頼していたが、博士と私の日程が合わず、平成26年度は断念をした。このために計上した費用が未使用になった。しかし、その後も体感音響装置の会社を通じて打診しており、平成27年度は研究研修が可能と返事を得ているので、是非とも実現し、科研費の研究に活かしたい。 2.人件費の未使用:研究のための会議、実験分析のためのデータ分析に必要な人件費を計上した。研究者間の会議や振動盤を開発した研究者の支援に必要な費用も発生したが、私の私費で対応した。また、実験の分析もおこなったが、私が自ら分析することで費用は使用しなかった。しかし、平成27年度は基礎実験は終了して臨床実験に入るため、かなりの人件費と謝金が必要となるので、そこで使用することにしている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は4研究を予定している。(1)健常者に対する体感音響装置による振動刺激に伴う受容特徴の検討:前年の周波数と強度の関係の特徴をふまえて、刺激強度と持続時間の関係の特徴を検討する。(2)健常者に対する体感音響装置による音楽呈示に伴う受容特徴の検討:前実験を参考に、30Hz~140Hzの周波数成分の多い音楽を選定し、その後、健常学生20名に振動のみ、音のみ、音と振動を組み合わせた3条件で呈示する。(3)重症児者の振動受容特性の検討:健常学生が心地よいと感じた周波数、持続時間を元に10名の重症児者に体感音響装置を用いた取り組みを行う。言語表出のない重症児者のため、心的活動を反映する生理指標(心拍、皮膚温、唾液アミラーゼ値)を評価に活用する。(4)体感音響振動療法の研修:9月にフィンランドのオラブ博士の元で重症児者への体感音響振動療法を学ぶ。これらの研究に繰り越した研究費を活用する予定である。
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