本研究は、多文化家族の生活問題のうち、夫婦間での家庭内暴力の発生のメカニズムを実証的に検討すると同時に、その予防に関する政策・施策の国際比較、さらには日常的な生活問題に関連する社会福祉学的な福祉的介入の指針を開発することを研究課題として、フランス、ドイツ、アメリカ、ニュージーランド、韓国、台湾、日本の研究者ならびにソーシャルワーカー等が参加した。 学術的な成果として、夫婦間の家庭内暴力に関しては、夫と妻の双方向からアプローチしている。このようなアプローチは、従前の研究においてこの種の研究ではほとんどなされていなかったことを考慮するなら、大きな成果が得られたと推察され、今後のこの領域における研究の発展、特にペアデータに基礎をおいた調査研究等にとって、大きな示唆を与えるものと言えよう。 また、家庭内暴力の予防的な政策や施策に関しては、従来は個別的で断片的にならざるを得なかった問題を、欧州、米国、オセアニア、そして東アジアを視野にいれながら、かつ各地域の研究者の協力のもとに、社会福祉学的な観点から、成果をまとめ上げることができたことは、前記地域の歴史や文化を踏まえつつも、人類に共通した社会問題にアプローチする今後の研究において、大きな示唆を与えるものと言えよう。 さらに、東アジア圏の多文化家族が直面している生活問題を、ソーシャルワークという枠組みにおいて、ほとんどこれまで体系化されてこなかったニーズを軸に、福祉的介入に関する指針を整理したことは、今後のこの領域の研究に大きな示唆を与えるものと言えよう。 こうした努力は、多文化社会とは異質的規律や価値観などが複合的に共存するため、常に文化間の葛藤を引き起こす要因が内在しているからである。さらに言えば、こうした議論は異質性を同質化するのではなく、それぞれの異質性が調和するガバナンス(協治)社会を目指すことに意義があると考えている。
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