ASD児とその養育者との関係性構築支援を検討することを目的として、アタッチメント理論に基づいて開発されたCircle of Security Parenting(COS-P)に参加したASD児の養育者のデータ分析を行った。全対象者31名のプログラム終了時アンケートの自由記載内容を分析した結果、5つの大カテゴリ(「学んだことへの意義」「自身の変化」「子どもの変化」「変化のなさ」「プログラムそのものへの感想」)が抽出された。子育てにおける子どもとの関わりは、前進と後退を行き来しながらも螺旋階段のように歩みを進める弛まないプロセスといえる。試行錯誤のプロセスの一部としての変化のなさを実感として感じつつ、その変化のなさを意味づけることもまた子育ての過程では必要といえ、こうした揺れ動きが抽出された結果といえる。 次に、プログラム内での語りについては1グループに参加した5名の養育者のCOS-P中の語りの記録をメンタライゼーションの観点から事例検討の形式で行った。その結果,参加当初は,子どもの言動の背景にある心的状態を鑑みずに行動で対処する“目的論的モード”や,“ASD児”としてのみ子どもの言動を理解する“ふりをするモード”といえる語りが、その後,ASD特性から生じるコミュニケーションの難しさによって引き起こされる養育者の傷つきや,子どもに対する理解のできなさについての語り、COS-Pの枠組みを通した子どもの心の動きの推察と関与、それによって生じる自身の感情体験の言語化と共有へと変化した。またCOS-P中の回顧場面に限定されるが,子どもの心的状況を自身の言葉で推察し,関わりを持とうとする“メンタライジングモード”を伺わせる語りが見られるようになった。COS-Pの枠組みや,ファシリテーターや当事者間で,子どもを巡って生じる感情を話し合う行為がそうした体験へとつながることが示唆された。
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