研究課題/領域番号 |
25285197
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
一川 誠 千葉大学, 文学部, 教授 (10294654)
|
研究分担者 |
木村 英司 千葉大学, 文学部, 教授 (80214865)
松香 敏彦 千葉大学, 文学部, 准教授 (30466693)
牛谷 智一 千葉大学, 文学部, 准教授 (20400806)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 実験系心理学 / 認知科学 / 比較心理学 |
研究概要 |
人間の視覚における知覚表象形成に関して,境界拡張現象(情景を観察する際に、実際よりも広範囲にわたる知覚表象が獲得される現象)が生じるためには、提示される画像はクローズアップである必要はあるが、知覚表象の空間的外挿の程度はクローズアップの程度とは相関しないことが分かった.運動知覚表象の形成過程に観察者の能動的観察動作が及ぼす影響を調べたところ,能動的な視点移動に基づいて得られる運動信号は,刺激画像の各要素において蓄積されるのに対し,自動的に動く刺激の観察で得られる運動信号は,刺激要素間の局所的対比・同化原理に基づいて処理されることが分かった.知覚表象形成における感性的情報処理の特性を理解するため,観察者の身体性が画像は位置の好ましさに利き手や注意の偏りが及ぼす効果を検討したところ,視覚的注意の偏りや利き手での操作が知覚表象形成における画像配置の好ましさの決定に寄与していることが分かった. 複数の個人間での情報伝達・コミュニケーションに関して,社会全体で構築・獲得される知識構造の特性について計算機シミュレーションを用いて検討したところ,社会が均等な性質をもつネットワークで構成されている場合、多様性があるpareto最適的(効用の最大化が確保される状態)な知識群を構成することが分かった. 複数の個人間での情報伝達で用いられ易いフレーズやフレームはどのようなものであるのか、行動実験を用いて検討したところ,人間は情報量に敏感で,情報量の高いフレームを用いた情報伝達を選択する傾向が示された. 視覚的体制化に関わる代表的な錯視であるカニッツァ錯視を用い,人間とハトの表象形成過程とを比較したところ,人間では輪郭で囲まれた領域をより明るく知覚したのに対し,ハトではより暗く知覚していることが分かった.輪郭図形による視覚探索の促進においても人間とハトの違いが認められた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視覚に関する知覚表象成立過程に関しては,自然画像を用いた境界拡張現象を用いた実験により,視覚表象形成に時系列的な画像情報が寄与していることが見出された.複数の種類の運動錯視を用いた実験により,視野内の運動ベクトルの分配過程に身体運動や網膜上情報がどのように寄与するのか理解できた.自然画像における好ましさ判断における身体表象の寄与が明らかになった. 個人間での情報伝達・コミュニケーションに関しては,社会が均質的な性質をもつネットワークで構成されている場合,効用の最大化が確保されるような知識群が構成されることが理解できた.また,行動実験において,人間は情報量に敏感で、情報量の高いフレームを用いた情報伝達を選択する傾向が示された. 人間とハトにおける錯視の種間比較実験において,大きさや長さの次元でこれまで確認されてきたハトの同化知覚傾向が明るさ次元においても確認できた.これは,ヒト含む哺乳類が進化的に夜行性の生態を経由している一方,鳥類は昼行性を維持してきたことと関連していると考えられる.本研究の目的であるヒトやその他の生物種が知覚や認知,運動の適応において採ってきた戦略を体系的に理解する上で重要な示唆を与える結果を得たと言える.
|
今後の研究の推進方策 |
視覚における表象形成過程の特性に関しては,引き続き,実験的研究を発展させる計画である.また,それと平行して,身体運動制御のための視覚情報処理過程の特性を調べるため,画像に対するポインティングや把持などの身体運動に視覚情報が寄与する過程を調べる実験を実施し,画像観察における視覚情報処理過程との比較を行う予定である.また,観察者と刺激との間に相互作用がある観察条件において,種々の錯覚,錯視がどのように成立するかを調べることにより,知覚表象形成過程と運動制御における情報処理過程の特性を検討する計画である.感性的判断の空間的偏りが知覚的表象形成や運動制御における偏りとどのように相互作用しているのかについても検討する計画である.これらの実験に関しては,研究員を雇用し,集中して実験を発展させる予定である. 個人間での情報伝達・コミュニケーションに関しては,2年目にあたる26年度は,これまでの研究とは異なり、より現実的な状況を想定し多研究を実施する.従来の認知計算モデルでは人間は完全な情報を得ることができるといった前提で検証されてきたのに対し、不完全情報下で、人間がどのように適応的に振る舞えるのかを認知計算モデルの設定に組み込み検証する計画である. 人間との比較研究として,これまでのところ,人間ではカニッツァ錯視を生じる図形の知覚について鳥類との種差が見いだされた.この種差がどのような条件では観察され,どのような条件では逆に種間共通性が見られるか,多種多様な知覚条件・知覚現象について引き続き種間比較をおこなう計画である.
|
次年度の研究費の使用計画 |
ハトを用いた実験について,新規のハト,装置ではなく,従来から研究室が保有しているものを使用して実験を実施したため,そのために確保していた予算に余裕が生じた.また,研究代表者や分担者自らが実験を実施した上,実験の参加者としてボランティアを用いたため,実験補助や参加者のために確保していた人件費に余裕が生じた. 2年目は,人間とハトの行動実験それぞれにおいて新しい装置を用いる予定である.その購入にあたって1年目に使用しなかった予算を用いる予定である.実験をより本格的に推進するため,実験補助,被験者に謝金を支払うことを計画している.
|