今後の研究の推進方策 |
先行研究では、薄明視における視覚運動情報の統合が不完全であるが故に、知覚的な感度が低下すると報告されている(Billino et al, 2008, Journal of Vision, Yoshimoto & Takeuchi, 2013, Journal of Vision)。しかしながら、今年度遂行した実験結果から、視覚運動を表現する環境座標系へのアクセスが容易でなくなることが、薄明視における感度の低下を引き起こしている可能性が示唆された。この点については研究計画を策定する段階では予想していなかったため、来年度はこの座標系の問題について追加の検討を重ねることを計画している。具体的には、非常に広い薄明視領域の内、どのレベルにおいて環境座標系の利用が困難になるか、そしてどのような加齢の効果があるかどうかを実験的に検証していく。 薄明視において遡及的推測が強まるという結果もまた、研究計画策定時には予測していなかった。この問題は薄明視における感度低下と密接に結びついているため、さらに検討を加える予定である。 また、加齢と共に空間対比が弱まるという従来研究(Betts, et al, 2005, Neuron)の結果が再現できなかったことから、その理由について実験的理論的な側面から検討する必要性が出てきている。さらには、加齢と共に時間的対比が強まる傾向があるという実験データが得られたことから、これまでに提案されている視覚的対比と加齢の効果に関するモデルは正しくない可能性が高いといえる。そこでこれまでのモデルや理論を改訂すべく、より広い薄明視領域において視覚運動プライミング現象を利用した実験を遂行する。
|