研究課題/領域番号 |
25285205
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
竹内 龍人 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (50396165)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 運動視 / 明所視 / 薄明視 / 暗所視 / 錯視 / 加齢 / 心理物理学 |
研究実績の概要 |
いろいろな環境光下における視知覚への加齢の影響を解明するために、本年度は視覚運動プライミングと呼ばれる運動錯視の生成機序について検討し、続いて視覚運動プライミングを含む運動錯視における加齢の効果を検討した。視覚運動プライミングとは、先行する運動刺激により後続の運動方向が曖昧な多義運動刺激(テスト刺激)の見かけの運動方向が一義に定まる現象である。 実験において先行刺激を視野中心部に提示しテスト刺激を視野周辺部に提示すると、明所視や暗所視では負のプライミングが生じた一方で、薄明視ではプライミングが消失した。視野周辺部における桿体の情報処理は錐体に比べると遅いため、薄明視では運動統合メカニズムへの情報入力が適切なタイミングで行われず、プライミングが消失したと考えられる。そこで視野周辺部において、テスト刺激を提示するタイミングを早め桿体からの情報入力の遅延を補償したところ、薄明視においてもプライミングが生じた。この結果から、錐体と桿体の時間特性の違いが錯視の生起の要因であることがわかった。 視覚運動プライミングは運動視における時間的側面が関与しているが、この現象においては、加齢と共に負のプライミングが強まるという先行研究がある。一方で、面積を大きくすると運動方向弁別感度が低下するという現象(周辺抑制現象)も報告されており、これは運動視の空間的な周辺抑制が関与している。加齢の効果の有無に関しては議論が分かれている状況である。 そこでこの二つの運動視現象について加齢の効果(20ー60歳代)を調べたところ、視覚運動プライミングに関しては、先行研究と同様加齢と共に負のプライミングが強まる傾向が得られたが、それには性差があった。一方で周辺抑制に関しては、年齢との有意な相関は無かった。環境光の効果については現在実験を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
視覚運動プライミングの生成機序を明らかにするというテーマに関しては、当初の予定通り進展した。薄明視下における視覚運動プライミングの消失が錐体と桿体における処理の時間差により生じることを実験的に示し、その内容を国際学術誌(Yoshimoto, Okajima, Takeuchi, 2016, Journal of Vision)において発表した。 一方で加齢の効果については、視覚運動プライミングおよび周辺抑制現象双方において、必ずも先行研究を支持する結果が得られなかった。前者では加齢の効果はみられたものの、同時に当初予想をしていなかった性差がみられた。この結果がどれほど一般的なのか、そして視覚運動プライミングのメカニズムとどのように関係があるのか、その点を明らかにするための実験を遂行する必要が生じた。また後者の周辺抑制現象に関しては、加齢の効果がみられた先行研究とみられなかった先行研究があるが、本実験の結果は後者を支持するものとなった。そのために、そもそもこの周辺抑制現象をさらに検討するべきなのか、その点を解決する必要が生じた。 以上の2点の問題が生じたために、環境光における加齢の効果については、本年度内に実験を終了することができなかった。そこで補助事業期間延長の承認を受け、来年度前半に実験の遂行および研究結果の発表を計画しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が本計画の最終年度であったが、上記のように当初予想していなかった結果が得られたために、補助事業期間延長の承認を受け実験を継続遂行することとなった。ただし周辺抑制現象については、通常照明下において加齢の効果がすでに消失してるために新しい実験は行わず、視覚運動プライミングにのみ焦点を絞ることとした。 視覚運動プライミングでは実験参加者が若年(20歳台)の場合には、薄明視でのみプライミングが消失し、明所視と暗所視ではほぼ同じ強さのプライミングが観察される。高齢者においても同じ結果が得られるのであろうか?もし加齢と共に特に暗所視領域での抑制機構が弱まるのであれば、その場合には暗所視でも薄明視と同様プライミングが消失する可能性がある。一方で、加齢と抑制機構の変容との関係に相関がないのであれば、プライミングの出現と消失は年齢に依存しないことになる。この点を実験的に明らかにすることを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
先行研究の結果を確認するために行った実験結果が、当初の予想とは異なるものであった。そこで、新たな実験計画やモデルの考案に時間を要したために、予定していた実験が遂行できなかった。また研究発表についても当初予定よりも延期した。そのために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
実験の遂行にかかる費用(人件費および実験用備品購入)および研究発表のための費用(論文投稿料等)として使用を予定している。
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